設計者の想いの日々(ブログ)
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姉歯元建築士

先日、当事務所で茨城県の建築指導課の立入検査が行われました。特に、うちの事務所が悪いことをしたから、立入検査が行われたわけではありません。毎年、建築指導課が無作為に建築士事務所をピックアップして、立入検査を行っており、今年は100数十の事務所を対象に県内全域を廻る予定と担当官の方はおっしゃっていました。
検査の概要は建築士事務所として業務が適正に行われているかどうかの帳簿の確認と、建物が完成した際、建築基準法に適合しているかの完了検査をきちんと受検してるかの確認が主でした。(完了検査を受けていない物件は茨城県内に非常に多いです。申請をしてお金を払わないと検査に来てくれません)
当然、当事務所は業務を適正に行っていますので、特に指摘事項はなく、一時間ほどで、無事、立入検査が終わったのですが、折角の機会ですので、役所などの公的機関の検査について、一言、申し上げたいと思います。

この十年、そして数年前の姉歯事件発覚後の法改正により、建築確認申請の書類や、建築士事務所の帳簿の書類の量が劇的に増加しました。お役所というところは、市民、県民、国民からのクレームが非常に多く、それに備えて、業者を管理するわけですが、その証拠となるものが、なんと言っても「書類」です。「書類」さえあれば、逃げ口上は作りやすいということで、建築指導課に限らず、お役所には「書類」があふれかえっています。役所の立場としては、業者の行動を逐一管理できないので、「書類」で管理せざるをえない側面もあると思います。そして、「書類」の管理で精一杯で、実際に行われている現場に隅々まで目が行き届いていないのが実情です。役所や検査機関が行う完了検査や住宅の瑕疵担保保険の現場検査ではあまり時間も取れず、充分にチェック機能を果たしているとはお世辞にも言えません。つまり、役所や公的機関の検査でOKだったから、建物が安心というわけではないということです。そして、耐震偽装を含めた違法建築や、意識的にせよ無意識的にせよ、手抜き工事を行う業者が存在しているのは昔も現在も変わっていません。

それでは一体、誰が建物の検査をすればよいのか?
私は施工する工務店・ハウスメーカーから独立した存在である「設計・工事監理者」たる建築士が「お客様の代理」となって行うべきだと思います。

そもそも、姉歯元建築士による耐震偽装工作は施工側である建設会社からの建設費コスト削減圧力により、偽装に手を染めたのが発端です。姉歯元建築士は建設会社からの仕事を干されるのを恐れて生活のために偽装を行い、次第に建築士としてのモラルが低下していったわけですが、もし、姉歯元建築士が「設計・工事監理者」として、施工側から独立した立場で、お客様から直接依頼を受けて、お客様の利益を守るために業務を行っていたのであれば、このようなことは起こりえなかったはずです。だいたい、偽装を行ったところで、建築士として、何のメリットもありません。「設計・工事監理者」と「施工」サイドの馴れ合いこそが事件の発端であり、諸悪の根源であると思います。そして、このような構図は発覚していないだけで、「氷山の一角」に過ぎないと推測されます。

こういう事情は、国土交通省はじめ、県の建築指導課は重々、理解されているようで、「建築士」としての職能を生かすために、数々の改革をして、一生懸命、住宅・建設業界のために尽くされていると思います。
けれども、「設計・工事監理者」と「施工」サイドの癒着はとりわけ、「住宅」の分野で多く散見されているのが現実です。
社会が複雑化し、価値観が多様化した現在、消費者の利益を守るために、これからの住宅・建設業界がどうあるべきか、見直す時期に来ているのではないかと私は考えています。
カテゴリ:建築構造・性能 2010年8月24日(火)
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