設計者の想いの日々(ブログ)
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永井昭夫
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建築雑感

現在の建築士学科試験を憂慮する

先日、一級建築士学科試験の試験官でした。「建築法規」という科目では、建築基準法・消防法・都市計画法などの法令集の持ち込みが許可され、また法令集にアンダーライン、○印などの解説でない書き込みも許されます。
しかし、ドサクサに紛れて、解説、図解などの不正な書き込み、すなわちカンニング行為をする受験生が少数ながら存在します。不正が発覚すれば、さっさと退場処置にすればいいんですが、現時点では不正な書き込みを受験生に消させる処置に留まるケースがほとんどです。私のクラスでは25人中5人そのような不正が発覚しています。
こんな状況では、真面目にやっている周りの受験生に失礼であるばかりか、まぎれもなく、建築士という資格に対する冒涜行為です。
来年以降、このようなケースに対して毅然とした態度を取るよう、試験本部に働きかけたいと考えています。

建築基準法などの法令は、建築的な知識が身についていないとその理解は難しいですが、それに加えて、ある程度の国語力がないと読み下しは難しいです。
建築を職業とする者は、その場その場を切り抜ける口八丁手八丁の者が多く、文脈全体を理解することは総じて苦手で、枝葉末節にこだわり、それを拡大解釈して、肝心なことを忘れてしまうケースが非常に多いです。そして建築以外知らない者が多いため、視野が非常に狭いわけです。
このような者が建築に携わることは、建築主(施主)にとって悲劇であり、今の現況を打開するためにも、建築士の学科試験に「国語」や「一般教養」の科目も追加すべきであると私は考えています。
カテゴリ:建築雑感 2014年8月9日(土)

建築家 W・M・ヴォーリズ

W・M・ヴォーリズは、1880年にアメリカで生まれ、日本人と結婚して、近江八幡を拠点とし、日本各地に数多くの洋館を建ててきた建築家である。1958年に近江八幡市名誉市民第1号に選ばれる。日本名は、一柳米来留(ひとつやなぎ めれる)。
ヴォーリズのその建築様式は多彩であり、自身がプロテスタントだったことから教会を多く設計し、また、学校、住宅も非常に多く、郵便局、銀行、百貨店、ホテル、病院など、業績の用途も多肢にわたる。
滋賀の豊郷小学校で、建替えを強行する町長・行政・工事業者側と、保存を強く求める住民側とで、鋭い対立がマスコミに報道されたのは10数年前であり、まだ記憶に新しい(?)ところではあるが、この豊郷小学校を設計したのはヴォーリズである。
また実業家としても広く知られ、メンソレータムを日本に広く普及させた張本人とされる。
茨城県にもヴォーリズが設計した「ビンフォルド邸」が大正12年に建てられ、90数年経った今も下妻市に現存する。現在は教会として使用。


  

ヴォーリズが設計した近江八幡に現存する1921年に建てられた元郵便局で、現在はギャラリー・イベントなどの多目的スペースとして活用されている。

近江八幡は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されて、旧い街並みがだいぶ残っており、ヴォーリスが設計したこの郵便局は西洋の様式が基調ではあるが、不思議と街並みと調和している。そして、築90年以上と古い建物ではあるが、経年変化によって培われたのであろう、味わい深さが残る。
下妻の建物も同様である。確かにあばら家と言われれば、その通りなのかもしれないが、味わい深さと気品と風格が漂うのである。
二つの建物に共通するのは、「経年劣化」ではなく、「経年変化」によって、味わいが深くなっているということである。
現在の建物の造り方、あるいは家造りは、メンテ重視と経済性優先の建前のもと営利を優先し、「経年変化」による味わいなど考慮されていないケースが殆どである。窯業系サイディングなどの印刷工業製品に依存し過ぎれば、、「経年劣化」があるのみであり、だいたい印刷では、「経年変化」もヘッタクレもないのである。また、最初は良くても、飽きやすいというのが印刷製品の特徴である。いくら印刷技術がこれから発達しようが、この事実は覆しようがないだろう。「馬鹿とサイディングは使いよう」とは確かに言いますけれども…。
技術が発達することで、確かに人間が得たものは多いでしょう。しかし、失ったものもそれ以上に多いのかもしれない。
カテゴリ:建築雑感 2014年2月28日(金)

不揃いの美

長い間、揃えることの美ばかりを追求してきたと思います。
ただもうこの辺で肩の力を抜いて、「不揃いの美」というものがあってもいいのではないかと考えるようになりました。

不揃い=どうでもいい、いい按配、信念・思想がない

ではないのです。

合理的に無理に揃えることの不自然さを手放して、敢えて揃えないことの自然の美しさを求めていきたいということです。

生きていくと直面するのは、不条理なことだらけです。

敢えて不条理を受け入れて、それを自然に表現していきたいのです。
カテゴリ:建築雑感 2013年7月7日(日)

消費税増税について考える

2014年4月に予定されている消費税増税を視野に入れ、顧客に対して現行の税率(5%)での住宅取得を薦める営業を実践している住宅会社が多くあるかと思います。その際の説明で気をつけなければならないのは、消費者契約法に抵触するような表現を避けることです。
同法によれば、将来における変動が不確実な事項について断定的な判断を提供し、消費者がその内容を確実であると誤認して契約の意思表示をした場合、その意思表示は取り消される恐れがあります。
例えば、顧客に対して「増税によって住宅価格がアップする」と説明したとします。この説明は、単に増税という客観的な事実を告げているだけのように考えられますが、しかし、増税の負担を軽減する制度が導入されるならば、顧客の支出は増税の前後で実質的にそれほど異ならないので、前述した「将来における変動が不確実な事項」について「断定的な判断を提供」したことになってしまいます。「顧客が住宅価格のアップが確実だと誤解して契約し、後で消費税増税分の負担軽減制度などが導入されて顧客の税負担に実質的な変動がなかった場合、顧客から契約を取り消される可能性もあるわけです。

尚、当設計事務所では、今後のご相談の案件については、来年4月予定の消費税増税駆け込み需要への対応は、大変申し訳ないのですが、お断りしております。
17年前の消費税増税(3%→5%)の駆け込み需要時には、失敗住宅物件が多々累々としているのは厳然たる事実です。
「急いては事をし損ずる」という格言を大事にしたいと、当設計事務所としては考えている次第です。
カテゴリ:建築雑感 2013年6月22日(土)

日本の杉材を見直す

もうすぐ、スギ花粉症に悩まされる時期になります。日本ではおよそ2500万人が患っていると考えられています。

日本の戦後の杉の植林事業により、杉の蓄積量は膨大の一途を辿っています。
林野庁によると、日本の杉を中心とする森林の年間成長量は約8千万m3である一方、国産材の供給量は年間約1,900万m3にしか過ぎません。
例えば、秋田県の杉林の面積と蓄積は日本一ですが、杉の蓄積量は約7800万m3、毎年の成長量は300万m3にのぼります。しかし、実際の消費量は49万m3で、成長量の1/6に過ぎず、しかも年々消費量は減少しています。
新潟県の森林資源も充実しています。新潟県で、戦後植林された杉人工林の面積が13万haに及び、一年間で成長する量は89万m3に達しています。
これは、1年間に新潟県で消費する丸太の量48万m3を十分に賄える量に当たり、丸太の需要を全て新潟の木で賄っても森林の蓄積が減ることはありません。
今回は、秋田県・新潟県を例に挙げましたが、全国各地、同じような状況に置かれています。
このようにして、杉の成長に伴い、杉の蓄積量が年々増え続けていますので、年々、スギ花粉症が深刻になっていくわけです。
現在、木材の供給量に占める国産材の割合(木材自給率)は、外材輸入量の増加と林業の採算性の悪化等による国産材供給量の減少により、20%程度に留まります。

杉や檜を育てる場合、苗を密集させて植え、地面の乾燥や風や雪による倒木を防ぎます。それを成長過程で間引き(間伐)して、密度を調節しながら育てます。しかし、間伐の時期が遅れ、密集したまま木が成長すると光が地面まで届かなくなります。暗い所では下草は成長できないので、土がむき出しになってしまいます。
この状態は「緑の砂漠」と呼ばれ、土地の保水力が乏しくなり、土砂が流出しやすいため、大雨などでの災害などの被害を受けやすくなります。今日本にはこういった「荒れた山」が増えています。
農家でいう収穫にあたる、杉の「主伐」を行わない理由は、昭和50 年代半ばから続く国産材の価格の下落で、木を売っても、伐って運び出す経費が賄えなくなっているのです。
これでは、すぐにはお金にならない山の手入れ、木の世話(育林)は、なおさら行われなくなります。
下草が生え保水力に富む森は、降った雨を少しずつ川に流す役割を果たします。ある山
奥の林業の村で大雨に見舞われましたが、そこを流れる谷川は急に増水することもなく、
水も濁りませんでした。
手入れが行き届かない山は、川にも影響を与え、川の問題は当然海の環境にも影響します。これを防ぐためには、伐った木を有効に使い、山にお金が戻るような経済の循環を取り戻す必要があります。

杉は無節にこだわなければ、決して高価な材料ではありません。そして、日本の気候や風土に合った材料であり、古来から、日本人と非常に密接な関係があります。
やや安価ではあるけれども、日本の高温多湿の気候に相容れない、耐久性に支障のある外国産の木材でなく、日本の杉をもっと見直しても良いのではないでしょうか。
「地産地消」の理念を掲げることは、日本の環境を守ることにつながり、世界の環境をも守ることになります。
イギリスのミュージシャンであるスティングは、「日本は自らの森林資源に目を向けず、経済性を追求し、外国の安価な森林を買い叩いて世界の環境を悪化させている」と正論を述べています。
スギ花粉症の到来を間近に控えた今の時期、設計者の一人として、微力ながらも、杉材の普及に努めていきたいと考える次第です。


杉材を多用した民家(桜川市真壁地区・重要伝統的建造物群保存地区)
カテゴリ:建築雑感 2013年1月22日(火)
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