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設計者の想いの日々(ブログ)長期優良住宅の落とし穴~PARTⅢ(竜巻の被害の教訓)
建築基準法施行令第3節木造の項目で、第42条(土台及び基礎)では
「土台(木部)は、基礎に緊結しなければならない」と記載されています。 先の大震災では、曳き家された建物、つまり、コンクリートの基礎を敷地内の別の場所に造って、既存の建物の基礎から上部の木造の部分を切り離して、そのまま新しい基礎に移動する方式のものがだいぶ被害を受けました。曳き家方式の場合、上物(うわもの)と基礎を緊結するのが非常に難しいので、基礎と上物(うわもの)がずれてしまったケースが多発したわけです。だから、建築基準法で上記のような項目が存在しているのでしょう。 但し、基礎と上部の木造の上物(うわもの)が緊結されればされる程、良いのかと聞かれれば、必ずしもそうではないのでは?と私は考えています。 先日の竜巻で、建物が反転し、ベタ基礎の床版の底部が見えるような状態、つまり、建物が180°回転してしまった建物を、テレビなどの報道等で拝見された方も多いと思います。 自然の脅威の前には人間の力が非力であることを否が応でも認識させられた衝撃的なものでした。 今日、私は友人のご親戚が竜巻の被害を受けられたということもあって、つくば市の北条地区に行って参りました。想像以上の凄惨な状況に、目の前が暗くなる想いでしたが、建築士の立場で、地区全体を歩き回りました。 ここからは、私なりの見解です。独断と偏見があるかもしれませんので、あくまで一人の建築士の意見としてお聞き下さい。 竜巻により、先に申し上げたように、建物が反転、すなわち、180°回転するまでに至った建物があったのですが、その主な原因としては、基礎と木造の上物(うわもの)が緊結され過ぎたからではないかと、現場を見た瞬間、直感的に思いました。つまり、ホールダウン金物の使い過ぎです。ホールダウン金物とは、コンクリートの基礎と柱脚(柱の下部)を緊結したり、柱頭(柱の上部)に用いられる金物です。この金物を過剰に使い過ぎた結果ではないかと思ったのです。 このホールダウン金物ですが、筋交いなどの壁量が増えれば増えるほど、計算上、多く必要となります。長期優良住宅の基準では、屋根が瓦の場合の1Fの壁量(筋交いなど)は、場合によって建築基準法の基準の倍近くなったりしますので、片筋交いではなく、ダブルの筋交い(×型の筋交い)が非常に多くなります。このダブルの筋交いは、計算上、ホールダウン金物が多く必要とされます。 1995年の阪神大震災では、柱が引き抜かれた建物が多発しましたので、その教訓から、柱の引き抜き力を計算することに法改正され、ホールダウン金物もだいぶ普及するに至りました。 話を戻します。 つまり、建物が180°回転するまでに至ったのは、竜巻の風圧で建物が押された結果、建物の壁(筋交い等)が風圧に対抗しきれず、建物が傾き、それに伴い、ホールダウン金物によって上物(うわもの)と強固に緊結されていたコンクリートの基礎も持ち上がる結果となり、突風により、重量の重いベタ基礎に加速がつき、上部の軽い木造を押し潰すまで回転したのではないだろうかと推測した次第です。ベタ基礎の底部には、必ず湿気防止のためにビニールの防湿シートが敷かれていますが、このビニールシートの摩擦係数が非常に小さいことも起因していると思います。また、その災害の現場は、田んぼの埋立地で、周囲に大きな建物や塀が何も無く、風圧をダイレクトに受けてしまったこともあるかと思います。 今回の竜巻の被害を受けた北条地区は、古い建物が立ち並ぶ地域で、ベタ基礎あるいはホールダウン金物の採用が少なかったせいか、反転にまで至った建物は、私が見る限り一軒だけでした。 先にも申し上げた通り、自然の脅威の前では、人間の力は非力です。自然に対抗するだけでなく、自然の力を逃がすことを考えるのも大事なのではないかと思うのです。失われた若き生命(いのち)の犠牲を想定外の天災で終わらせることなく、非力ながらも人間の智恵を結集すべきではないのだろうかと私は考えています。 末筆になりましたが、この度の竜巻により、被害を受けられました皆様に心からお見舞い申し上げますと共に、今回の天災でお亡くなりになられました方に、謹んでご冥福をお祈り致します。
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