設計者の想いの日々(ブログ)
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永井昭夫
建築設計事務所
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設計者の想いの日々(ブログ)

すべて

基礎

土間の全てに鉄筋を組んでコンクリートを打設する「べた基礎」が住宅の基礎の主流になって、だいたい10年くらい経ったでしょうか。10数年前までは、べた基礎のように建築物を地盤全面で受けるのでなく、壁の線上で受ける凸型の「布基礎」が大半を占めていました。
「布基礎」から「べた基礎」が主流となっていった背景にあるのは、1995年の阪神・淡路大震災後の耐震性の向上についての関心の高まり、そして、一部の人々の間では既にわかっていたことですが、「布基礎」も「べた基礎」もコスト面で、ほとんど変わらなくできることが次第に明確になってきたことです。
そのコストが変わらない理由として、「べた基礎」は、「布基礎」と比較して、コンクリートや鉄筋などの材料の量は増えますが、コンクリートの打設回数が、土間に防湿コンクリートのある「布基礎」が3回であるのに対し、「べた基礎」は2回で済むこと、土の根伐や埋め戻し作業が「べた基礎」のほうがはるかに楽で、「布基礎」より手間がかからないことなどが挙げられます。
つまり、「べた基礎」は相対的に材料代はかかるけど人件費が安い、「布基礎」は相対的に材料代はかからないけれど人件費が高いということです。
10数年前まで、「べた基礎」が「布基礎」よりコストが高いのは常識でした。

そして、昨年の瑕疵担保履行法の施行により、スラブ(土間コンクリート)の鉄筋の太さ・13㎜、その間隔・15~20cmが標準的になり、住宅の基礎はますます頑強になっています。
木造ではなく、RC造(鉄筋コンクリート造)のスラブは作業で頻繁に歩き回ってたりすると、配筋に乱れが生じることもありますが、鉄筋太さ13㎜・間隔15cmの場合、乱暴に歩いても、全く乱れは生じません。(下記写真は鉄筋ピッチ15cm間隔)





また、ここ10数年、簡易的な地盤調査、スウェーデンサウンディング方式が普及したことで、杭基礎や地盤改良が行われるケースも多いようです。(地盤調査の現在のあり方は問題を多く抱え、6月6日付のブログ「地盤調査」でその詳細を書き記しています)

このように、最近の流れとして、住宅の基礎は頑強になり、かつ、必然的にその重量が重くなっているのですが、昔の住宅の基礎は、下記写真のように玉石に柱を載せただけでした。このような基礎であっても、100年以上の風雪や数々の地震に耐えた古民家、神社・仏閣が多く残存していることは、紛れもない事実であります。



私は最近の頑強な住宅の基礎も、昔の玉石の基礎も否定しません。ただ時代の変遷、あるいは法律によって、基礎のあり方が変わっていくことに、設計者として戸惑っているだけです。現在の基礎が「進歩」なのか、「オーバースペック(過剰性能)」なのか、今後、時間をかけてもいいので、慎重に見究めることも必要なのではないかと私は考えています。
カテゴリ:建築構造・性能 2010年9月17日(金)

無垢材

考えてみれば、日本には、主に構造材や内装材として、多くの木材、いわゆる無垢材が市場に流通しています。
日本の代表的な樹種である「杉」や「檜」は構造材や、床・壁・天井の内装材や造作材として多用され、産地もほとんど日本全国各地にあります。そのほか国産の無垢材としては、かつては梁などの材料で多用され、現在は信州や岩手産が多く、主に内装材として流通している赤松や唐松などの「松」、木材らしい香りがするけど値段も非常に高い青森産などの「ヒバ」、玄関の式台や上り框(かまち)などに使われる銘木としての「ケヤキ」、今は希少価値ですが、昔は線路の枕木として使われ、拭き漆で仕上げると綺麗な「栗」、集成材としての用途が多い北海道産の「タモ」、檜の親戚である「サワラ」、和室の床柱に至っては、「槐(えんじゅ)」、「花梨(かりん)」、「黒柿」、「一位(いちい)」、「榁の変木」など、銘木が沢山あります。

輸入材では、現在、構造材である梁の材料で主流となった北米産の「米松」、土台や造作材で使われる同じく北米産の「米ヒバ」、用途が雑種な「米栂(べいつが)」、日本ではほとんど枯渇した、床材の用途が多い堅木である中国産の「ナラ」や「サクラ」そして「栗」、内装材として使われる中国にもある「杉」、かつては日本でも大量に採れましたが、今は中国や南米からの輸入が主流で、タンスのような家具や寝室や押入の内装に使われる、比重が小さく発火しにくい「桐」、バンブーフローリングと呼ばれる床材としての「竹」、高級品として世界でも名高い東南アジア産の「チーク」、赤身、白身、赤白(源平)とあって、主に床材に使用される「ラオス松」、最初は白っぽいですが、徐々に飴色に変わる北欧産・内装材である「パイン」、世界三大銘木の一つで、床材やテーブルに使用される欧州・北米産の「ウォールナット」、集成材の柱としてハウスメーカーで多用される北欧産のホワイトウッド、日本や中国ではナラと呼ばれ、主に欧州産の床材である「オーク」などなど、無数にあります。

無垢材の仕上げ方は、アクリルやウレタンでコーテイングしてメンテナンス性を重視した製品や、オイルやワックスで素材感を出す仕上げ方、無塗装のもの、あらかじめ着色された製品、珍しいところでは、前述のような漆、藍染で仕上がった製品もあります。また、床暖房に対応した無垢材も檜やナラなど各社が多くの樹種で開発していて、その方法としては、無垢材の含水率を0%に限りなく近づけて、その後、含水率を確か10%前後だったかな?、そのくらいに戻していって商品化しているようです。

このように、無垢材を勉強すると際限が無く、材木屋が一人前になるには最低でも10年以上かかると云われる所以です。
かくいう私も、無垢材の勉強に余念のない時期があって、カットサンプルを随分収集したものです。目移りするほどの無垢材から自分の好みというか感性に合ったものを選び出すのは簡単なことではありません。
最近では、これだけ多くの樹種の無垢材があるということは、人間にも色々な人々がいるのと一緒で、キリがなく、結局、人との「縁」ではないですが、無垢材にも「縁」があるのではないかと思うようになりました。「縁」を考えると、接する機会が多い理由で、日本の「杉」や「檜」ということになります。ただ、これは「縁」ですので、人それぞれ違うかと思います。
長くなりましたので、無垢材については、また別の機会に、また別の視点で、書き記していきたいと思います。
カテゴリ:建築素材・材料 2010年9月16日(木)

胡蝶蘭

「幸せの飛来」という花言葉を持つ胡蝶蘭を掲載して、皆様の、そして、当設計事務所の「幸福」を祈願したいと思います。美しく、幸福を運んでくるような建築物を設計し、お客様と造り上げていくためには、技術だけでなく、「願う」「情熱」「夢」「幸福への祈り」「寒い冬を凌いで芽吹く春の到来を待つ」などの、「想う」気持ちの要素はとても重要だと思います。















カテゴリ:設計者の日常 2010年9月15日(水)

代理人としての役割の設計事務所

総務省によると、ネットの普及などに伴い、情報の量はこの10年で500倍以上になったとのことです。これだけの夥しい情報の氾濫のなかで生きるためには、情報の取捨選択のセンスを磨くことが極めて大事になってきていると言ってよいでしょう。
住宅業界でも他の業界にも増して、多くの情報が氾濫していまして、今まで何の知識のなかったお客様がこの業界の大海に飛び込むためには、いくら用意周到に準備したとしても、「不安感」を覚えざるをえないのが現実だと思います。
この「不安感」を少しでも解消しようとするために、ハウスメーカー・ビルダーは大量に営業社員を動員して、言葉巧みにいわゆる「見込客」に近づき、営業社員はお客様を想う「良い人間」であることを演出して、自らの会社の利益を守るマニュアルに添って、歩合給という餌をぶら下げられて、必死に成約に結びつけようと動いて、お客様が各社を吟味して選択決定するのが、現在、住宅を建築するに至るまでの構図の王道です。
ただ、この営業社員は契約前の接客を主とする人たちであり、会社からマニュアル通りの教育は受けていたとしても、建築士などの資格を持たない、あるいは今後もそのような資格を取得する気がない、住宅や建築について素人な人間がほとんどです。ただ、会社の利益を守るためのマニュアルに則って、接客に長けているだけに過ぎません。

一般的に、未知の物事に取り組む場合、知識のある有資格者などに相談したり、「代理人」を立てて、自らの利益が損なわれないようにすると思います。例えば、裁判を起こす場合、弁護士を「代理人」に立てて、相手と戦うのが普通でしょう。生半可な知識を持つ無資格の人間と相談して、裁判を行う者はほとんどいないでしょう。
けれでも、住宅業界では、総合的に住宅や建築の知識のある有資格者を「代理人」として立てずに、利益を求める会社がマニュアルを生半可な素人に与えて、彼らを窓口にして、お客様に高い買い物をさせてしまうのが常識にすらなっています。

同じ建築業界でも、住宅以外の用途について、例えば、商業施設、福祉施設、医療施設、事務所などのような建築主(施主)は、何回となく建物を建築する機会もあり、知識ある有能な建築士の資格を所持する代理人を立てて、いかに自らの意図を徹底させて、かつ、自らの利益を保護するためのノウハウを培っています。つまり、中立の立場にある「代理人」たる設計事務所を上手く使い、なるべく自らの理想に近いものを、建設会社に搾取されることなく実現する術を知っています。「設計事務所」に設計・工事監理業務だけを委任するのでなく、建築主(施主)の「代理人」たる役割を与えることで、建設会社との折衝を任せるなどして、自らの利益を守っています。

住宅の業界でも、情報が氾濫し、人々の価値観が多様化し、複雑化した社会のなかでは、設計事務所を「代理人」として立てていく重要性をもっと人々に認識されるべき努力をしていかなければならないと私は考えています。
カテゴリ:当設計事務所の姿勢・信条 2010年9月14日(火)

一期一会

建築士の資格の有無の論議はさておいて、住宅の設計はいちおう、誰でもこなすことができるという意味では簡単です。とにかく実例はいくらでもあるのですから、その辺のプラン集を買ってくるなり、ネットで引っ張ってきて、ちょっと修正したり、過去の自分の実績例とほとんど同じものをお客様に提出してお茶を濁すケースが後を絶ちません。そういう安直な方法で設計を行っていると、何回打ち合わせしても、なかなかプランが決まらないことも多いようです。

そういう私も駆け出しの頃はプランがなかなか決まらず苦労したものです。敷地の条件はみな違う、お客様の価値観やライフスタイル・予算もみな違う、さらに輪をかけて法的規制が厳しい東京・神奈川では、なかなかお客様の希望に添えず、何度となく頭を抱えました。
そうこうするうちに、お客様が何を要望しているのか、お客様の取り巻く条件というものが次第に見えてきて、何十回と書き直すことが当たり前だった状況から、最近では、その後、微調整は何回かあったとしても、2~3回で平面・立面の骨格が決まることも決して珍しくなくなりました。某ハウスビルダーなどで半年以上、間取りが決まらなかった案件が当事務所では2週間程度で決まったこともありました。

未熟な設計者が何度もお客様と打ち合わせを重ねていると、お客様もわけがわからなくなり泥沼にはまります。要点を的確に押さえない打ち合わせはマイナスにはなっても、プラスには決してなりません。後々のトラブルの元にもなります。
私の個人的見解として、設計者の能力の差、行ってきた仕事の質はあるにせよ、注文住宅は最低50~100軒の設計業務を行わなければ、お客様の要望を引き出して、臨機応変に対応し、かつ設計者の思想を反映し、実行可能なそれなりのお客様の予算に納められるような設計を行うことは難しいと思います。
とにかく、100軒あったら、100軒みな条件がそれぞれ違うのですから、最低の場数は必要です。アパートや建売住宅とは訳が違います。
職人の世界でもそうです。左官職人は何年も壁を塗ることで一人前になります。料理の世界でも、一流の料理人が素材の良さを引き出し、自分なりのこだわりの味付けができるまで、それなりの場数が必要でしょう。いくら才能があっても、最初から頭角を現す人間はいません。

そして、100棟の住宅の設計の経験があったとしても、「ルーティンワーク」となって、「一期一会」の気持ちが無くなったら、進歩は無くなります。進歩どころか、お客様に満足できる建築物も提供できなくなり、時代の要請として、設計業界からの退場宣告もされかねません。「基本」に帰って、また「無」の状態に戻って、新しい気持ちで、お客様の要望を聞き、取り巻く条件を把握し、緊張感をもった設計の仕事をすることが常に大事であると私は考えています。
カテゴリ:建築雑感 2010年9月11日(土)
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