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設計者の想いの日々(ブログ)建築構造・性能適材適所と長期優良住宅
「適材適所」という言葉の語源は、木材の使い分けから生まれた言葉と云われています。
豊富な森林資源に恵まれてきた日本では、針葉樹・広葉樹などの多くの木材が、「適材適所」に使用されてきました。 例えば、土台には白蟻に強く、耐久性の高い赤身の檜や栗を使用し、柱には垂直荷重に強く耐久性があり豊富に採ることができて、見た目も美しい杉や檜が多用され、梁には強靭な曲げ強度を持つ松が使用されてきました。 もちろん、木材は自然素材ですから、同じ樹種でも、一本一本素性が違います。強度の期待できない目の粗い木材は、建築物の構造上、負担のかからない位置に使用したり、構造材として仕入れたとしても、強度上問題ある木材は使用せず、内装材や造作材として転用したりして、創意工夫を凝らしながら、建築物を造り上げていきました。大工が木材の素性を一本一本吟味しながら、木材を刻み加工してきたのが、日本の長年の建築の歴史です。 ところが、昨今の情勢では、柱や梁などの構造材の加工を大工が行わず、プレカット工場に任せることが主流になってきています。ハウスメーカー・ビルダーでは100%が安価なプレカット工場を利用しています。もちろん、機械による加工ですから、刻みは正確なのですが、木材が適材適所に使われているかということについては、大きな疑問が残ります。 工場の生産ですから、効率性を追求するあまり、木材の素性を吟味せず、次から次と加工ラインに乗せてしまうやり方が幅を利かしているのが現状です。プレカット工場でも大工が立ち会って、木材を吟味しながら加工していくのなら問題は生じないとは思いますので、設計者として、私はプレカット工場を全面否定はいたしませんが、大工が親身に立ち会うようなプレカット工場はあまり存在しないのが本当のところです。 このような時代の趨勢の中で、国の施策として、長期優良住宅の普及が叫ばれていますが、木材が適材適所に使われずに、本当の意味での長期優良住宅が実現できるのか、甚だ疑問です。 また、柱の育った年数が建物の寿命とよく云われます。長期優良住宅を謳うならば、柱も最低70~80年以上育ったものを使用していくのが本当だと思いますが、断面寸法が所定の120mm角以上あれば、30年物の柱を使用したとしても長期優良住宅で認定されてしまうことにも大きな矛盾を感じます。 「適材適所」の本来の意味を考え、原点に返ることの必要性が現在の住宅・建築業界には必須であると、設計者の一人として、私は考えています。
在来木造工法の構造を考える
今日は「在来木造工法」の建築物の構造についてのお話です。今回はちょっと難しい話題かもしれませんが、構造の考え方の盲点になっている面がありますので、しばし、お付き合い頂けると嬉しいです。
「在来木造工法」と云うと、何百年前からの木造の建築物をも含むと思われるのが一般的だと思います。しかし、この認識は全く違っていて、戦後の建築基準法が制定された昭和20年代からの木造建築物のことを指します。それ以前の木造建築は「伝統工法」と言って、構造の考え方がまるで違っています。つまり、戦後から現在の「在来木造工法」は筋交いなどを計算に入れて、「強さ」というか「剛性」で、地震や風圧力などの自然の力に対抗するのに対し、何百年前から戦前までの「伝統工法」は「粘り」、「力を上手に逃がす」ことで、自然の力と上手に付き合ってきました。 どちらがいいのか悪いのか、ここでは言及を避けますが、現在の建築基準法では、筋交いがなく、石に柱を載せるような「伝統工法」は違法ということになります。また「在来木造工法」は戦後60年ほどの歴史しか有しておらず、その歴史は試行錯誤を繰り返しています。 前置きはこのぐらいにしまして、まず、2Fの床の水平剛性についての話です。2F建の建築物の場合、2Fの床は、建築物の高さ方向のほぼ真ん中に位置します。 この2F床の水平剛性が重要であると次第にわかってきたのはまだ最近で、阪神大震災の頃です。 それ以前は、2Fの床を支える梁(火打梁含む)だけで、水平剛性を持たせようとしました。しかし、垂直方向の壁に筋交いなどを入れて大きな耐力を持たせているのに対し、水平方向の耐力は梁組だけです。それでは水平方向の耐力がなく、かつ垂直方向の耐力に対しアンバランスで、筋交いの利きが非常に悪いということがわかってきましたので、2Fの床の梁に構造用合板を直貼りすることで、水平剛性を確保しました。この構造用合板の厚みも次第に厚くなって、現在では28㎜程度で施工されることも多いようです。私自身も約15年前から「在来木造工法」における水平剛性の大切さは非常に認識しております。 ただ私が散見するに、施工が悪いケースは非常に多いです。つまり、構造用合板を利かすための釘の選定が間違っていることが多々あるのです。具体的に言えば、いわゆる丸釘(N釘)やCN釘を使用しなければ強度が出ないのにもかかわらず、大工の機械の鉄砲で細めの釘をガンガン打っていきます。ハウスメーカー・ビルダーの現場でも同様です。現場監督が知識不足のせいか、現場をかけ持ちし過ぎているせいかわかりませんが、そこまで目が行き届いていないのが現状です。 また、このような構造用合板ですが、自然素材志向の私としては、できれば合板でなく、無垢材で2Fの床の下地も仕上げたいところなのですが、水平剛性が確保できる構造用としての無垢材が限られていて、また高価であることから、構造上の事項を優先して、合板を使用するに至っております。 もう一点、今度は、壁に筋交いを使用するに加えて、壁に構造用合板、あるいはそれに類似するダイライトのような面材を貼る場合の注意点です。これらの面材は筋交いと同様に、耐力壁となりうるものなのですが、構造計算上、これらの面材の使用を全く考慮せず、筋交いのみ使用での計算で済ますことが多いのは非常に危惧するところです。いわゆる構造用合板は余力耐力という考え方で、強い分には問題ないだろうという安易な発想です。 筋交いだけの計算の場合と、筋交い+構造用合板などの面材の計算の場合では、まず柱脚・柱頭に使用する金物が変わってきます。つまり、筋交いだけの計算ならば、簡易な金物で済んでも、筋交い+構造用合板などの面材の計算では堅固な金物が必要になるのです。つまり、耐力壁が強くなればなるほど、柱の引き抜き力が増していくのです。筋交いだけの金物の計算で簡易な金物を設置し、実際は筋交い+構造用合板などの面材を使用した場合、大きな地震が来た際、柱には計算以上の大きな引き抜き力が働き、建築物が崩壊しても不思議ではないのです。 まだ問題はあります。耐力壁のバランスの問題です。一般的な住宅の場合、南側にサッシのような開口部が多くて壁が少なく、北側に開口部が少なく壁が多いことが多数だと思います。つまり南側に耐力壁が少なくて北側に耐力壁が多い「在来木造工法」の場合、阪神大震災を例に挙げると、耐力壁の少ない南側が崩壊するケースが多く見られました。つまり耐力壁が偏り過ぎる建築物は崩壊しやすいことが証明されてしまったわけです。その後、建築物の偏心率の算定規定が旧建設省により設けられるに至りました。 ところが、この偏心率の算定を、またまた、構造用合板のような面材を余力耐力として考え、筋交いだけの計算で済ましてしまうことが非常に多いのです。筋交いだけで、北側と南側の耐力壁のバランスを取っても、構造用合板のような面材を考慮しなければ、偏心率の計算は「絵に描いた餅」で、危険な建築物が出来上がってしまいます。 長くなりましたので、今日の構造の話はこの辺で終わりにしたいと思いますが、言い足りないことはまだまだ沢山あります。また別の機会に別の論点について、お話したいと思います。今日の話は専門的でちょっと難しかったと思います。もしご不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせください。
高気密・高断熱住宅の功罪
鎌倉時代、吉田兼好は「徒然草」で、次のように書いています。
「家の作りようは、夏を旨とすべし。冬は、いかなるところにも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」 さて、現代の住まい造りは、省エネの観点から、「高気密・高断熱化」が時代の申し子のように叫ばれています。果たして、本当に「高気密・高断熱化」の住宅が省エネ対策に有効なのでしょうか? 「断熱」とは文字通り、熱を遮断することで、夏は外部からの熱を遮断し、冬は内部の熱を外に漏らさない様にします。 これを逆の言い方にすれば、夏は内部の熱を外に漏らさないようにし、冬は外部からの熱を遮断するということになります。 現在の「高気密・高断熱」あるいは「中気密・中断熱」の住宅にお住まいの方で、夏場に部屋に熱がこもってしまう不快さ加減を経験していない方は皆無と言っていいでしょう。 けれども、「低気密・低断熱」である昔の家には、夏場に部屋に熱がこもるということは、あまりありません。 さらに、昔の古民家のように、庇が深い家は太陽高度の高い夏場の熱を遮る効果があり、「家の作りようは、夏を旨とすべし」の言葉を忠実に守っています。 対して、現在の住宅は総2F建に近い建物や庇の浅い建物が多く、夏の熱射線には全く無防備で、さらには風通しを設計上考慮しないことによって、熱が非常にこもり易い造りの家が多いようです。 このように、現在の住宅は、夏に関しては、「高気密・高断熱」の造りであろうが、昔の家と比較して、必ずしも省エネになっているとは言えないことがわかります。現在の夏の気候が、昔と比べて暑く感じるのは地球温暖化の影響だけでは決してなく、現在の建築物の造り方にも密接に関わっているように思います。 時代の流れによって、建築物の「高気密・高断熱」化は、これから益々進行していくと思いますが、設計者として、兼好法師の「家の作りようは、夏を旨とすべし」の言葉も忘れないようにしていきたいと私は考えています。 「高気密・高断熱」については、また別の機会に別の視点からお話したいと思います。
基礎
土間の全てに鉄筋を組んでコンクリートを打設する「べた基礎」が住宅の基礎の主流になって、だいたい10年くらい経ったでしょうか。10数年前までは、べた基礎のように建築物を地盤全面で受けるのでなく、壁の線上で受ける凸型の「布基礎」が大半を占めていました。
「布基礎」から「べた基礎」が主流となっていった背景にあるのは、1995年の阪神・淡路大震災後の耐震性の向上についての関心の高まり、そして、一部の人々の間では既にわかっていたことですが、「布基礎」も「べた基礎」もコスト面で、ほとんど変わらなくできることが次第に明確になってきたことです。 そのコストが変わらない理由として、「べた基礎」は、「布基礎」と比較して、コンクリートや鉄筋などの材料の量は増えますが、コンクリートの打設回数が、土間に防湿コンクリートのある「布基礎」が3回であるのに対し、「べた基礎」は2回で済むこと、土の根伐や埋め戻し作業が「べた基礎」のほうがはるかに楽で、「布基礎」より手間がかからないことなどが挙げられます。 つまり、「べた基礎」は相対的に材料代はかかるけど人件費が安い、「布基礎」は相対的に材料代はかからないけれど人件費が高いということです。 10数年前まで、「べた基礎」が「布基礎」よりコストが高いのは常識でした。 そして、昨年の瑕疵担保履行法の施行により、スラブ(土間コンクリート)の鉄筋の太さ・13㎜、その間隔・15~20cmが標準的になり、住宅の基礎はますます頑強になっています。 木造ではなく、RC造(鉄筋コンクリート造)のスラブは作業で頻繁に歩き回ってたりすると、配筋に乱れが生じることもありますが、鉄筋太さ13㎜・間隔15cmの場合、乱暴に歩いても、全く乱れは生じません。(下記写真は鉄筋ピッチ15cm間隔) また、ここ10数年、簡易的な地盤調査、スウェーデンサウンディング方式が普及したことで、杭基礎や地盤改良が行われるケースも多いようです。(地盤調査の現在のあり方は問題を多く抱え、6月6日付のブログ「地盤調査」でその詳細を書き記しています) このように、最近の流れとして、住宅の基礎は頑強になり、かつ、必然的にその重量が重くなっているのですが、昔の住宅の基礎は、下記写真のように玉石に柱を載せただけでした。このような基礎であっても、100年以上の風雪や数々の地震に耐えた古民家、神社・仏閣が多く残存していることは、紛れもない事実であります。 私は最近の頑強な住宅の基礎も、昔の玉石の基礎も否定しません。ただ時代の変遷、あるいは法律によって、基礎のあり方が変わっていくことに、設計者として戸惑っているだけです。現在の基礎が「進歩」なのか、「オーバースペック(過剰性能)」なのか、今後、時間をかけてもいいので、慎重に見究めることも必要なのではないかと私は考えています。
姉歯元建築士
先日、当事務所で茨城県の建築指導課の立入検査が行われました。特に、うちの事務所が悪いことをしたから、立入検査が行われたわけではありません。毎年、建築指導課が無作為に建築士事務所をピックアップして、立入検査を行っており、今年は100数十の事務所を対象に県内全域を廻る予定と担当官の方はおっしゃっていました。
検査の概要は建築士事務所として業務が適正に行われているかどうかの帳簿の確認と、建物が完成した際、建築基準法に適合しているかの完了検査をきちんと受検してるかの確認が主でした。(完了検査を受けていない物件は茨城県内に非常に多いです。申請をしてお金を払わないと検査に来てくれません) 当然、当事務所は業務を適正に行っていますので、特に指摘事項はなく、一時間ほどで、無事、立入検査が終わったのですが、折角の機会ですので、役所などの公的機関の検査について、一言、申し上げたいと思います。 この十年、そして数年前の姉歯事件発覚後の法改正により、建築確認申請の書類や、建築士事務所の帳簿の書類の量が劇的に増加しました。お役所というところは、市民、県民、国民からのクレームが非常に多く、それに備えて、業者を管理するわけですが、その証拠となるものが、なんと言っても「書類」です。「書類」さえあれば、逃げ口上は作りやすいということで、建築指導課に限らず、お役所には「書類」があふれかえっています。役所の立場としては、業者の行動を逐一管理できないので、「書類」で管理せざるをえない側面もあると思います。そして、「書類」の管理で精一杯で、実際に行われている現場に隅々まで目が行き届いていないのが実情です。役所や検査機関が行う完了検査や住宅の瑕疵担保保険の現場検査ではあまり時間も取れず、充分にチェック機能を果たしているとはお世辞にも言えません。つまり、役所や公的機関の検査でOKだったから、建物が安心というわけではないということです。そして、耐震偽装を含めた違法建築や、意識的にせよ無意識的にせよ、手抜き工事を行う業者が存在しているのは昔も現在も変わっていません。 それでは一体、誰が建物の検査をすればよいのか? 私は施工する工務店・ハウスメーカーから独立した存在である「設計・工事監理者」たる建築士が「お客様の代理」となって行うべきだと思います。 そもそも、姉歯元建築士による耐震偽装工作は施工側である建設会社からの建設費コスト削減圧力により、偽装に手を染めたのが発端です。姉歯元建築士は建設会社からの仕事を干されるのを恐れて生活のために偽装を行い、次第に建築士としてのモラルが低下していったわけですが、もし、姉歯元建築士が「設計・工事監理者」として、施工側から独立した立場で、お客様から直接依頼を受けて、お客様の利益を守るために業務を行っていたのであれば、このようなことは起こりえなかったはずです。だいたい、偽装を行ったところで、建築士として、何のメリットもありません。「設計・工事監理者」と「施工」サイドの馴れ合いこそが事件の発端であり、諸悪の根源であると思います。そして、このような構図は発覚していないだけで、「氷山の一角」に過ぎないと推測されます。 こういう事情は、国土交通省はじめ、県の建築指導課は重々、理解されているようで、「建築士」としての職能を生かすために、数々の改革をして、一生懸命、住宅・建設業界のために尽くされていると思います。 けれども、「設計・工事監理者」と「施工」サイドの癒着はとりわけ、「住宅」の分野で多く散見されているのが現実です。 社会が複雑化し、価値観が多様化した現在、消費者の利益を守るために、これからの住宅・建設業界がどうあるべきか、見直す時期に来ているのではないかと私は考えています。
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