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設計者の想いの日々(ブログ)建築構造・性能「長ほぞ込み栓打ち」を見直す
かつて、柱と土台の接合、あるいは柱と梁の接合方法は、古来から培われた日本の伝統工法として、「長ほぞ込み栓打ち」が、木造建築の基本中の基本でした。
「長ほぞ込み栓打ち」の接合方法は、小嶋基弘建築アトリエ様のサイトに画像付で、建築関係者のみならず、一般の方々にもわかりやすく説明されています。 現在、プレカット工場の普及により、大工さんによる構造材の手刻み加工が減少し、構造材同士を金物で留める現代的な工法が主流となり、それに伴い、金物を使用しない「長ほぞ込み栓打ち」という伝統的接合方法は激減しました。(一部のプレカット工場で「長ほぞ込み栓打ち」に対応している所もあります) 伝統的で技術を要し、少々手間がかかる「長ほぞ込み栓打ち」から、施工が簡単で効率的な「短ほぞ・金物留め」が主流となったわけです。 「短ほぞ」は、柱の位置決めやずれ止め程度の役割にしか過ぎませんので、必ず、金物で緊結する必要があります。 この緊結する金物ですが、決して万能なものではなく、日本の高温多湿の環境により、錆びて腐食が進むことがあり、また、場合によっては、金物が結露することで、構造材そのものを腐食させる結果となることもあります。現在の釘や金物が健全な状態で50~100年以上持つことは、非常に考えにくいのです。 実際に、築100年にも大きく満たない建物を解体してみると、釘が脆くなっている状態で発見されるようで、日本の伝統技術に熟達する大工さんが、「釘・金物を決して信用し過ぎてはならない」と言われる所以です。 また、構造材の接合部の至る所を金物で緊結し過ぎるにより、木造の建物の特性として、本来備わっている、柳の木のような「しなやかさ」が無くなります。つまり、外力を上手に逃がすことが出来なくなるのです。大木が台風で一瞬になぎ倒されるが如くです。 1995年の直下型地震である阪神大震災では、「長ほぞ込み栓」接合の建物は、倒壊せずに済んだと言われています。「込み栓」が、地震の縦揺れによる柱の引き抜きを防ぎ、「長ほぞ」が、地震の横揺れに対して対抗したのではないかと推測されます。 「長ほぞ込み栓打ち」は、古来から培われた、建物を長く持たせるための工夫と知恵の一つであり、かつ、耐震性を併せ持っています。このような日本の伝統技術をないがしろにして、国が「長期優良住宅」の普及を叫んだところで、全く片手落ちであり、だいたい「長期優良住宅」の基準を満たそうとすると、金物で緊結され放題の木造の建物が出来上がります。 つまり、数年前に施行された「長期優良住宅」の基準と、古来から培われた日本の伝統工法は、全く相容れないものです。 当設計事務所としては、急ごしらえで、矛盾が多く、普及の進まない「長期優良住宅」の基準に則るよりも、古来から培われた日本の伝統工法の研鑽を深めていく方向性のほうが、明らかに正しいであろうと考えている次第です。
省エネ義務化VS伝統通風派
もう以前の記事ですが、非常に面白いものだったので、下記に、そのまま引用します。この件についての当設計事務所の意見は、今回、差し控えます。別の機会に詳しく書き記したいと考えています。
国土交通省は7月10日、2020年までに全ての新築建物に省エネ基準への適合を義務付ける方針や、次世代省エネ基準(1999年基準)を見直す方針などを正式に決定した。 方針の案を5月10日から6月11日までパブリックコメント(意見公募)に掛けた際に集まった意見と、各意見に対する同省の見解も公表。意見の一部を方針に取り入れた。 “伝統派”“通風派”関連の意見 意見(1) 断熱性能レベルアップの義務化によって、伝統工法による真壁づくりの住宅が不可能にならないようにすべきだ。 意見(2) 気密、断熱以外に、日本の伝統家屋に見られる通風、庇、蓄熱、遮熱などの環境性能評価も取り入れるべきだ。 意見(3) 一般住宅の断熱性能を上げるという方向性に対しては断固反対。風通しのいい家、土壁で調湿効果があり温度では表せない快適さのある家など、本当の意味でのエコな家が建てられなくなるからだ。 意見(4) 全国一律の基準のなかに組み込むことで、温暖地の住宅の持つ開放性が損なわれはしないか。小規模住宅においてはその規制を緩やかにして選択の幅を広げるべきだ。 意見(5) 日本古来の工法は、日本の気候風土に根ざした日本のための建築方法である。省エネ基準にはこういう工法を新技術と対等の地位で取り入れて、消費者がどちらでも自由に選択できるようにすべきだ。 【国交省の見解】 伝統的な工法や日本の気候風土に合わせた住まいづくりの工夫については、関係する有識者などの参加を得て検討を進める。 *意見(1)~(5)に対する共通の見解
構造材のプレカット加工の功罪
木造の建物の構造体、つまり、柱・梁・土台などを加工する作業は、プレカット工場と呼ばれるところで、最新鋭の機械で加工されるケースが、現在では90%を超えるまでになりました。ハウスメーカー・ビルダーを中心に、経済性・効率性を追求する時代の流れに逆らえることが出来ないということもあって、プレカット工場は、ここ10~20年で、一気に普及するに至りました。
機械が加工するのですから、加工精度もあり、悪いことは何一つないように考えられているのが一般的だと思います。 ところが、加工する柱・梁・土台などの材料は、人間と同じで、癖があります。木の目や木の癖を見極めずに、工場の生産ラインで次々と加工してしまうことには大きな落とし穴があります。木材は、「反り」「ねじれ」などの狂い避けられない扱いの難しい材料です。しかし、適材適所に木材を使用することで、建物の構造体としての不具合を無くし、より長持ちするような建物にすることが可能です。それが日本の伝統技術というものでした。けれども、プレカット工場では、このような木材の特性を生かしきることは至難の業です。 そこで、木材の癖を極力無くすために、木材を人工乾燥させ、狂いのない材料にするようなことが行われます。この人工乾燥は、木材の水分を減らすことで、狂わない材料にすることを目的にしています。ところが、この人工乾燥は、水分を減らすだけでなく、木材の脂身まで減らしてしまうので、木材自体の粘りが無くなります。また、乾燥過程で木材の内部割れを起こすため、強度は無くなります。さらに、この人工乾燥に使用する木材は、木の目が荒い強度の低い材料を使用しないと、含水率が下がりにくいため、元々強度の低い材料なのです。 このような加工工程を経た木造住宅が長期優良住宅と称されたりするわけです。 では、一体、このような諸問題を解決するためには、どうすればよいのか?答えは簡単です。昔ながらの大工さんの「手刻み」の作業に原点回帰すればいいのです。 「手刻み」は、熟練の大工が、材料を吟味し、「自然の木の癖」を読みながら、刻んでいき、木材を適材適所に使用します。 話は変わりますが、「適材適所」という言葉は、材木屋から生まれたと言われています。 この「手刻み」を経済性・効率性という名のもとに無くしていけば、「日本の大工の伝統技術」は消滅します。また、この「手刻み」が出来ない大工は、内部の細かい造作工事が乱雑です。 小回りの利かない工業製品に席巻される現在、長い日本の伝統に培われた技術を放棄するような流れに委ねることは、私自身、設計者の一人として許容することができません。伝統技術を持った大工職人が減りつつある昨今、時間的猶予は、無くなりつつあります。
長期優良住宅の落とし穴~PARTⅢ(竜巻の被害の教訓)
建築基準法施行令第3節木造の項目で、第42条(土台及び基礎)では
「土台(木部)は、基礎に緊結しなければならない」と記載されています。 先の大震災では、曳き家された建物、つまり、コンクリートの基礎を敷地内の別の場所に造って、既存の建物の基礎から上部の木造の部分を切り離して、そのまま新しい基礎に移動する方式のものがだいぶ被害を受けました。曳き家方式の場合、上物(うわもの)と基礎を緊結するのが非常に難しいので、基礎と上物(うわもの)がずれてしまったケースが多発したわけです。だから、建築基準法で上記のような項目が存在しているのでしょう。 但し、基礎と上部の木造の上物(うわもの)が緊結されればされる程、良いのかと聞かれれば、必ずしもそうではないのでは?と私は考えています。 先日の竜巻で、建物が反転し、ベタ基礎の床版の底部が見えるような状態、つまり、建物が180°回転してしまった建物を、テレビなどの報道等で拝見された方も多いと思います。 自然の脅威の前には人間の力が非力であることを否が応でも認識させられた衝撃的なものでした。 今日、私は友人のご親戚が竜巻の被害を受けられたということもあって、つくば市の北条地区に行って参りました。想像以上の凄惨な状況に、目の前が暗くなる想いでしたが、建築士の立場で、地区全体を歩き回りました。 ここからは、私なりの見解です。独断と偏見があるかもしれませんので、あくまで一人の建築士の意見としてお聞き下さい。 竜巻により、先に申し上げたように、建物が反転、すなわち、180°回転するまでに至った建物があったのですが、その主な原因としては、基礎と木造の上物(うわもの)が緊結され過ぎたからではないかと、現場を見た瞬間、直感的に思いました。つまり、ホールダウン金物の使い過ぎです。ホールダウン金物とは、コンクリートの基礎と柱脚(柱の下部)を緊結したり、柱頭(柱の上部)に用いられる金物です。この金物を過剰に使い過ぎた結果ではないかと思ったのです。 このホールダウン金物ですが、筋交いなどの壁量が増えれば増えるほど、計算上、多く必要となります。長期優良住宅の基準では、屋根が瓦の場合の1Fの壁量(筋交いなど)は、場合によって建築基準法の基準の倍近くなったりしますので、片筋交いではなく、ダブルの筋交い(×型の筋交い)が非常に多くなります。このダブルの筋交いは、計算上、ホールダウン金物が多く必要とされます。 1995年の阪神大震災では、柱が引き抜かれた建物が多発しましたので、その教訓から、柱の引き抜き力を計算することに法改正され、ホールダウン金物もだいぶ普及するに至りました。 話を戻します。 つまり、建物が180°回転するまでに至ったのは、竜巻の風圧で建物が押された結果、建物の壁(筋交い等)が風圧に対抗しきれず、建物が傾き、それに伴い、ホールダウン金物によって上物(うわもの)と強固に緊結されていたコンクリートの基礎も持ち上がる結果となり、突風により、重量の重いベタ基礎に加速がつき、上部の軽い木造を押し潰すまで回転したのではないだろうかと推測した次第です。ベタ基礎の底部には、必ず湿気防止のためにビニールの防湿シートが敷かれていますが、このビニールシートの摩擦係数が非常に小さいことも起因していると思います。また、その災害の現場は、田んぼの埋立地で、周囲に大きな建物や塀が何も無く、風圧をダイレクトに受けてしまったこともあるかと思います。 今回の竜巻の被害を受けた北条地区は、古い建物が立ち並ぶ地域で、ベタ基礎あるいはホールダウン金物の採用が少なかったせいか、反転にまで至った建物は、私が見る限り一軒だけでした。 先にも申し上げた通り、自然の脅威の前では、人間の力は非力です。自然に対抗するだけでなく、自然の力を逃がすことを考えるのも大事なのではないかと思うのです。失われた若き生命(いのち)の犠牲を想定外の天災で終わらせることなく、非力ながらも人間の智恵を結集すべきではないのだろうかと私は考えています。 末筆になりましたが、この度の竜巻により、被害を受けられました皆様に心からお見舞い申し上げますと共に、今回の天災でお亡くなりになられました方に、謹んでご冥福をお祈り致します。
長期優良住宅の落とし穴~PARTⅡ
長期優良住宅は、税制面で優遇されていると喧伝されています。つまり、新築家屋(120㎡分を限度とする)の固定資産税が5年間、1/2に減額されるというものです。
ところが、長いスパンで考えるならば、「長期優良住宅」は、税制面で非常に不利になることでしょう。つまり、長期に渡って優良であり続ける「長期優良住宅」の課税額は、なかなか落ちることがないと予想されるからです。固定資産税の算定用の償却期間は、一般の木造住宅で、20年から22年です。構造躯体が100年持つ様に定められている「長期優良住宅」の償却期間が、一般の木造住宅より、はるかに長く設定されるのは、非常に理にかなったお話であり、長期優良住宅が税制面で優遇されているどころか、国の「隠し増税」なのではないかと指摘されても、やむをえないことと思われます。 「長期優良住宅」の課税額がほとんど落ちないとして、例えば、数十年後、この「長期優良住宅」が「一般的な木造住宅」よりはるかに高い価格で売買されるかと言えば、それは非常に考えにくいです。つまり、「長期優良住宅」の仕様は、事実上、それだけのものにしか過ぎないということです。 大手ハウスメーカーあるいはパワービルダーの長期優良住宅の柱は、欧州産のホワイトウッドの集成材が使用されることがあります。非常に安価で、狂いの少ない材料ですから重宝されるのですが、日本の高温多湿の気候には非常に馴染まず、また白蟻にも弱い材料です。いちおう、地盤面より1mの部分には薬剤処理することとなりますが、それは気休め程度に過ぎず、その保証期間も5年程度です。壁の中に密閉されている柱を再度、薬剤処理しようにも、壁を剥がさなければなりません。 先のブログ「長期優良住宅の落とし穴~PARTⅠ」で申し上げた屋根下地の構造用合板についてもそうです。外部に面した合板が日本の湿気の多い気候に耐えられるはずがないのです。 私が思うに、「長期優良住宅」も「一般的な木造住宅」も数十年後の耐久性は大差ないでしょう。けれども、税金は、「長期優良住宅」の方がはるかに高いのです。 また、「長期優良住宅」は、筋交いなどの耐力壁が多いため、ライフスタイルの変化に伴う間取りの可変性に非常に乏しいものになっています。このような融通の利かない税金の高い「長期優良住宅」が、長期間に渡り、ストックされるはずはないのです。 平成21年6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」は、理念こそ立派ですが、中身と掛け声が噛み合わない矛盾の多い法律と言えるでしょう。
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