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設計者の想いの日々(ブログ)すべて佐原の町並み・重要伝統的建造物群保存地区
水運を利用して「江戸優り(えどまさり)」と呼ばれるほど栄えていた千葉県香取市の佐原地区は、平成8年、関東で初めて「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、江戸時代の面影を残す町並みが今でも活きています。
佐原出身であり、日本地図作成の大事業を興した伊能忠敬の旧宅(国指定史跡)です。現在、震災の影響もあり、修復工事中です。
「建築家」でなく一介の「設計者」として
当設計事務所は、自らが設計した建築物を「作品」と称することに対して、大きな違和感を覚えています。そして、自らを「建築家」と自称することにも、気恥ずかしさを感じるので、一介の「設計者」であると称しています。
当設計事務所の対極に位置する「アトリエ系」の設計事務所は、自らの設計した物件を「作品化」とすることにハングリー精神を持ち、自称建築家として、意匠的なエゴイスティックな追求に、日々、余念がありません。つまり、お客様の生活理念・使い勝手を犠牲にしてでも、自らのイメージした意匠性にこだわり続けます。例えば、彼らは、ファッサード(外観の正面のデザイン)を重視するあまり、トイレなどの水廻りの窓を設置しないようなことを平気で行います。 そして、彼らの自称「作品」に共通するのは、「作品」のワンパターン化と、日本の伝統文化の忌避、底の浅い「意匠性」、「生活感覚」の乏しさです。 有名建築家・安藤忠雄に憧れて、意匠的にRC造(鉄筋コンクリート造)で設計したいけど、コストの制約上、やむなく木造を採用しているという屈折感を持つ「建築家」も少なくありません。 また、「アトリエ」系の設計事務所は、建築家としてのエゴを追求するあまり、身から出た錆、受注率がとても低いです。 私自身、彼らのハングリー精神には見習うべきものが非常にあるとは考えています。 けれども、私は、実際にお金を出資するお客様の生活理念・使い勝手、言い換えると建物の実用性を犠牲にすることには大きな抵抗感を持っています。なぜなら、建築物は「芸術品」ではなく、「実用品」であるという確固たる信念を持っているからです。 芸術家とは、「文学・哲学」「絵画」「彫刻」「一部の陶芸品」などのような自己完結的な分野で能力が発揮されるべきであり、何千万、億単位のお金がかかる「建築」の分野で、「建築家」のエゴを追求されても、社会的損失は計り知れないと考えています。 今は亡き某有名建築家は、自らが設計した公共建築物が雨漏りした際、「雨漏りしても仕方がない意匠・構造なんだ」と述べたそうです。 建築物は、風雨を凌ぐのが基本中の基本であり、意匠性を追求するあまり、雨漏りしたのでは、本末転倒というものです。 当設計事務所は、建物としての「実用性」と、建築物としての「意匠性」は両立できると考えています。というか、それが「建築」の常識なのではないでしょうか。「実用性」を犠牲にするのは単なる怠慢に過ぎないのです。 実用的な条件・制約あるいは法的な制約から、「意匠性」を生み出そうとすることこそが、「設計者」の役割なのではないでしょうか。 (実用性=お客様の言いなりでは決してないこと、誤解されないで下さい) 自らが設計した建物を「作品」と呼ぶことに大きな抵抗があっても、やはり私自身が設計した建物には愛着はあります。その「愛着」をお客様と共有できることが、一介の「設計者」としての達成感であり、幸福であるように考える次第です。
「長ほぞ込み栓打ち」を見直す
かつて、柱と土台の接合、あるいは柱と梁の接合方法は、古来から培われた日本の伝統工法として、「長ほぞ込み栓打ち」が、木造建築の基本中の基本でした。
「長ほぞ込み栓打ち」の接合方法は、小嶋基弘建築アトリエ様のサイトに画像付で、建築関係者のみならず、一般の方々にもわかりやすく説明されています。 現在、プレカット工場の普及により、大工さんによる構造材の手刻み加工が減少し、構造材同士を金物で留める現代的な工法が主流となり、それに伴い、金物を使用しない「長ほぞ込み栓打ち」という伝統的接合方法は激減しました。(一部のプレカット工場で「長ほぞ込み栓打ち」に対応している所もあります) 伝統的で技術を要し、少々手間がかかる「長ほぞ込み栓打ち」から、施工が簡単で効率的な「短ほぞ・金物留め」が主流となったわけです。 「短ほぞ」は、柱の位置決めやずれ止め程度の役割にしか過ぎませんので、必ず、金物で緊結する必要があります。 この緊結する金物ですが、決して万能なものではなく、日本の高温多湿の環境により、錆びて腐食が進むことがあり、また、場合によっては、金物が結露することで、構造材そのものを腐食させる結果となることもあります。現在の釘や金物が健全な状態で50~100年以上持つことは、非常に考えにくいのです。 実際に、築100年にも大きく満たない建物を解体してみると、釘が脆くなっている状態で発見されるようで、日本の伝統技術に熟達する大工さんが、「釘・金物を決して信用し過ぎてはならない」と言われる所以です。 また、構造材の接合部の至る所を金物で緊結し過ぎるにより、木造の建物の特性として、本来備わっている、柳の木のような「しなやかさ」が無くなります。つまり、外力を上手に逃がすことが出来なくなるのです。大木が台風で一瞬になぎ倒されるが如くです。 1995年の直下型地震である阪神大震災では、「長ほぞ込み栓」接合の建物は、倒壊せずに済んだと言われています。「込み栓」が、地震の縦揺れによる柱の引き抜きを防ぎ、「長ほぞ」が、地震の横揺れに対して対抗したのではないかと推測されます。 「長ほぞ込み栓打ち」は、古来から培われた、建物を長く持たせるための工夫と知恵の一つであり、かつ、耐震性を併せ持っています。このような日本の伝統技術をないがしろにして、国が「長期優良住宅」の普及を叫んだところで、全く片手落ちであり、だいたい「長期優良住宅」の基準を満たそうとすると、金物で緊結され放題の木造の建物が出来上がります。 つまり、数年前に施行された「長期優良住宅」の基準と、古来から培われた日本の伝統工法は、全く相容れないものです。 当設計事務所としては、急ごしらえで、矛盾が多く、普及の進まない「長期優良住宅」の基準に則るよりも、古来から培われた日本の伝統工法の研鑽を深めていく方向性のほうが、明らかに正しいであろうと考えている次第です。
伝統的な屋根葺工法
檜皮葺(ひわだぶき)・鹿島神宮本殿(茨城県鹿嶋市)・国指定重要文化財~現在工事中
檜皮葺(ひわだぶき)とは、屋根葺手法の一つで、樹齢70年以上の充分な樹径のある檜の樹皮を用いて施工する、 日本古来から伝わる格式高い伝統的手法で、世界に類を見ない日本独自の屋根工法です。通常は長さ75センチ程度にそろえた檜皮を少しずつずらしながら重ねていき、竹くぎで留めます。優美な傾斜の曲線が現れる、この工法の出来る業者は、現在の日本では、五つもないという状況です。この工法は約千数百年の歴史を有します。 檜皮葺(ひわだぶき)を接写した様子です。幾層にも檜皮(ひわだ)が積み重ねされています。 檜皮(ひわだ)で葺かれた鹿島神宮仮殿(国指定重要文化財) 椎名家住宅(茨城県かすみがうら市)・国指定重要文化財 檜皮葺(ひわだぶき)よりは庶民的な茅葺(かやぶき)屋根です。 茅葺(かやぶき)は世界各地でもっとも原始的な屋根とされ、日本でも縄文時代には茅を用いた屋根だけの住居が作られていたと考えられています。茅(かや)は「ススキ」の別名で、「萱」とも書きます。20世紀半ばまで、日本各地の山間部の農村に茅葺の屋根が数多く残されていましたが、現在では、新築に使われることがほとんど無くなりました。世界遺産に登録されている岐阜県の「白川郷・五箇山の合掌造り集落」は茅葺屋根です。 椎名家住宅の建物内部の様子 建物の内部で竈(かまど)や囲炉裏を使用すると煙で燻されることによって、茅葺屋根の耐久性が高められます。
旧土浦中学校本館
旧土浦中学校本館(現在土浦一高)
1904年に建築された旧土浦中学校の本館は、国の指定重要文化財です。 設計者は、東京駅や日本銀行本店を設計した辰野金吾の弟子である駒杵勤治で、木造で建築され、平面は凹字型、左右対象をなし、建築様式はゴシック風のものです。現在も学校の用途として一部、生徒に活用されており、構造的な大規模修理が一度もされていないにもかかわらず、東日本大震災の損傷も軽微で済みました。 ガラスは当時のままで、現代のような量産工程で造られたものでなく、手漉きのガラスです。 屋根は宮城県産の雄勝石で葺かれていましたが、経年劣化により、昭和40年代に、彩色石綿セメント板、俗に言うスレート瓦に葺きかえられています。重要文化財としての観点からすれば、この点が一番残念なところです。 旧土浦中学校時代の机を復元し、往時の教室の雰囲気をよみがえらせています。
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