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設計者の想いの日々(ブログ)すべて長期優良住宅の落とし穴~PARTⅠ
2~3年前のことだったでしょうか。
現行の建築基準法を辛うじてクリアする程度の構造強度を持つ建物と、「長期優良住宅(建築基準法の1.25倍の構造強度)」の建物を同時に、震度6程度の揺れにさらした実物大の実験が行われました。この実験の目的は、「長期優良住宅」の耐震性を証明するために行われましたが、結果としては、「長期優良住宅」のほうが先に倒壊する結果に終わりました。 この比較実験の様子を、ある動画で、私も拝見いたしましたが、「長期優良住宅」の揺れには粘りがないんですね。「柳に風」のようなしなやかさが全くないのです。 私は東日本大震災があった昨年3月11日14時46分、水戸の重要文化財である、築170年を誇る「弘道館」の敷地内におりまして、地震の最初から最後まで、「弘道館」が揺れる様子を間近に、そして冷静に観察することが出来ました。このような重要文化財を、大震災時、間近に観察することが出来た建築の専門家は、ひょっとすると私だけかもしれません。 弘道館の揺れ方は、地震力に真っ向から対抗するような揺れ方ではなく、地震の力を上手く逃がしながら、構造体が粘り勝ちしたような印象を受けました。土壁が損傷するなどの被害はありましたが、構造体に大きな損傷はありませんでした。 このように、大震災時の「弘道館」と、実験時の「長期優良住宅」の揺れ方を比較すると、全く異なった様相を示しております。「長期優良住宅」は地震力に真っ向から対抗としようとし、建物の強さである「剛性」に依存しようとしますが、「柳の木のようなしなやかさ」がありませんので、大木が台風に一瞬のうちになぎ倒されるかのように、倒壊してしまうわけです。 長期優良住宅の構造仕様は、筋交いなどの耐力壁が非常に多く、また補強金物が多用されていて、非常に雁字搦め(がんじがらめ)の構造なっています。 つまり、地震力を上手く逃がそうとするような「柳に風」のような発想は全くありません。 また、この日本の高温多湿の気候の中で、外気に接する屋根下地に構造用合板を使用せざるをえない長期優良住宅の基準にも疑問を感じます。合板は湿気に弱いですから、長期に渡ってその性能を保持することは非常に難しいでしょう。 「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が平成21年6月4日に施行されました。諸外国と比較して、寿命の短い日本の住宅の現状を打開して、長期に渡って優良な住宅のストック化を推進すべきであるという理念は、非常に理解することができます。 けれども、国の推進する具体的な施策及び基準が必ずしも正しいとは限りません。国は長期優良住宅に補助金を出していますが、そのような小遣い銭に釣られること無く、民間業者は、国の施策に対抗できるだけの提案を積極的に行うべきであると私は考えています。
省令準耐火構造
木造の建物の場合、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比較して、火災保険が割高に設定されていますが、「省令準耐火」構造とすれば、木造であっても、通常の保険料の約半額で済ますことが可能です。但し、木造であっても、軒裏が化粧・木現しとなっている和風の建物では、「省令準耐火」構造とすることは不可能です。また、壁や天井に無垢材を多用している場合は、「省令準耐火」構造とするための工事が高くつきますので、通常の保険料のままのほうがお得な場合が多いです。
壁や天井を、石膏ボードを下地としたクロス貼・塗り壁などのような仕上げを主体とする場合は、「省令準耐火」構造とするための工事をしたほうが、概算で10万円前後、お安くなります。 地震保険についても、2010年より、木造でも、「省令準耐火」構造とすれば、通常の保険料より約半額で済ますことが出来るようになりました。火災保険だけでなく、地震保険にも加入されるような場合は、無垢材を多用するような建物の場合であっても、「省令準耐火」構造としたほうがお得な場合がありますので、ここは、非常に注意を要するところです。 「省令準耐火」構造のための工事とは大きく挙げると以下の通りです。 ・外部からの延焼を防ぐため、軒裏の構造を12㎜の防火サイディング同等の仕様とする。 ・天井の下地のボードが1Fの場合、強化石膏ボード12㎜もしくは石膏ボード9㎜二重貼とし、2Fの場合は石膏ボード12㎜もしくは石膏ボード9㎜二重貼とする。 ・火災の生じた部屋から他の部屋への延焼を防ぐための措置を講じる。 難しいお話になりますが、「省令準耐火」構造とは、建築基準法で言うところの「準耐火構造」とは違っています。、「省令準耐火」とは、旧住宅金融公庫の仕様の名残で、現在では、もっぱら、保険の話でのみ使用される用語です。
2012年現在の太陽光発電システムを考える
太陽光発電システムの価格がだいぶ下がってきました。3年位前までは1KW当たり65~70万の設置費用がかかりましたが、現在では、1KW当たり50万を切るような見積も珍しくなくなりました。
平成24年度からは、1KW当たり55万以下の設置費用でないと、国の補助金が出ないことになり、さらに、1KW当たり47.5万以下の設置費用で済むのであれば、通常よりも国の補助金が上乗せされるという施策が行われることとなりました。 太陽光発電を扱う各企業の努力と、国の施策により、これから益々、設置費用(イニシャルコスト)は下がるでしょう。但し、現在の住宅用の1kWh当たりの売電価格については、現在42円ですが、今後、少しずつ抑えられていくことが予想されます。 メンテナンスとして、10年ごとにパワーコンディショナーの交換が必要だったりするので、数年前までは、太陽光発電を設置しても、元を取ることは難しいだろうと言われていましたが、2009年から始まった売電制度や、国の補助金や各自治体の補助金も手厚くなり、現在では10~15年で初期投資を回収することも十分可能と言われています。 住宅の太陽光発電システムは約3.5KWの設置が平均的な相場です。3.5Kwと言っても、これは公称なので、実際はその7~8割の発電量なのが現実です。自動車メーカーが公表している車の燃費の公称と同じような扱いですね。 太陽電池は、価格は、「多結晶」より少し高いですが、発電効率の高い「単結晶」がお勧めです。 昨年の大震災時、被災地では電気も水道も止まりましたが、停電であっても、日中晴れていれば、太陽光発電システムからコンセント一個分の電源を取り出すことが出来ます。その電源を使用して、井戸ポンプを動かせば、水の供給も可能になります。非常時の際は大変重宝されるシステムと言えるでしょう。 また、電力モニターにより、発電と消費した電力をリアルタイムに表示しますので、節電の意識は非常に強くなります。 但し、太陽光発電システムも大きな欠点があります。それは景観を壊すことです。 伝統的な建築物が多い京都では、景観規制により、太陽光発電システムを設置することが出来なかったりする地域も多いようです。確かに、伝統的、あるいは和風の建物に太陽光パネルを搭載したら、非常に見苦しい建物になってしまうことを否定することは出来ません。街中の電柱や電線が、街の景観を悪くしてしまうのと一緒でしょう。 もちろん、自然エネルギーを活用することは大事です。けれども、景観の悪化は日本の良き伝統の破壊にもつながりかねないことですので、設計者の一人として、何らかの対応・創意工夫が必要であると私自身、考えているところです。
安易な地盤調査と地盤改良に警鐘を鳴らす
現在の住宅の地盤調査では、ほとんどがスウェーデン式サウンディング試験という簡易的かつ安価な方法で行われています。このスウェーデン式サウンディング試験も、以前は手動式や半自動式が主流でしたが、最近は自動化・機械化が進み、地質の知識が全く無い者でも操作できるような試験方法に変わってきました。
元々、このサウンディング試験、その精度には難があり、補助的な地盤調査資料として、あるいは、軟弱地盤かどうかの目安を確認する程度のものでした。土質を判別するに十分な地中の土を採取することが出来ないのが最大の欠点です。 近年、スウェーデン式サウンディング試験の自動化・機械化が進んだことで、その試験の精度が上がったという誤解が、巷間、まかり通っているようですが、それは全くの誤りで、安全側に過剰に反応するこの自動的試験のお陰で、半数以上の敷地で、地盤改良が必要であるという不可思議な結果が生じています。 このサウンディング試験では、一般的に、25cm毎に、その地層の持つ強度を現す数値(換算N値)を算出して、5~10m位までの深さまで、結果表にまとめられています。 但し、このサウンディングの最近の自動式試験は、実際には、1cm毎にその結果を算出することが出来るようです。つまり、25cm毎に、換算N値を算出していくに当たって、その論拠となる数値は25個あるわけですが、その25個のなかでも最悪の数字を採用して、地盤調査の結果表を作成しているようなのです。 地盤が建物を支えるに当たっては、たった1cmの地点が建物を支えているのでなく、全体的な面として支えているわけですから、1cm毎に25通りの結果が出されたならば、その25通りの平均の数字が妥当な数値であるべきです。それが建築構造計算にあたっての常識的考え方です。 このサウンディング試験、一つの敷地につき、4~5ヵ所のポイントで測定が行われますが、結論から申し上げると、たった一ヶ所のポイントで、1cmでも悪い部分があれば、地盤改良が必要という結果を人為的に導き出されることが非常に多いようです。 こんな人為的な結果は、いわゆる「シロアリ悪徳商法」と何ら変わるところはないと私は思います。無料もしくは格安で床下を点検し、業者が勝手に白蟻を蒔いて、すぐ駆除工事をしないと大変なことになるっていう詐欺商法です。 このスウェーデンサウンディング自動化試験も、原価では3万程度で、格安に設定されています。普通に考えて、こんな金額で出来るはずはないのですが、その後の地盤改良工事が控えているので、そこで十分に元が取れるということでしょう。 このような理不尽な地盤調査方法がまかり通っているのは、まず、地盤調査を行う会社 が地盤改良工事をも、請け負ってしまうことが原因です。 こんないい加減な調査方法で、無駄な地盤改良工事が日常茶飯事に行われている現実について、疑問を呈している者は、建築の素人で多くを占められている現在の住宅業界のなかに於いて、皆無に近いのが現状です。 また、住宅会社にとって、この地盤改良工事が大きな追加工事として利潤を確保できる側面があることも、現在の地盤調査の安易なあり方に拍車をかけているのではないでしょうか。 保険の意味で、仮に必要性が無かったとしても、地盤改良工事をしておけば、何かと安心という考え方もあるでしょう。 ところが、この地盤改良の大半の工事について、将来、私たちの子孫に、非常に大きな問題を残すことが明白なのです。 一番、安価な地盤改良工事として、柱状改良というものがあります。地盤にセメントミルク(セメント+水)を注入して、土と攪拌して、直径60cmの柱を、4~5mの深さまで作るものです。平均的な住宅の床面積の建物で、この柱というか杭は、30~40本作られます。 問題となってくるのは、この柱状改良の寿命です。例えば、50~100年後に家を建替える際、この柱状改良が再利用できるかというと出来ません。かといって、この柱状改良を撤去するのも、やってやれないことはないでしょうが、大変な工事と金額になることでしょう。また、この柱状改良杭を避けて、新しい建物を配置することも非常に難しいでしょう。 つまり、産業廃棄物が埋められた土壌を子孫に残すということになります。あるいは土地を売却しようにも、そのような汚染された土地では、それも難しいでしょう。 ちなみに、この柱状改良された地盤で、先の震災において、基礎の不同沈下の被害が多く報告されています。 安易な地盤調査と地盤改良は、貴重な財産を失いかねない行為ですので、当設計事務所としては、現在のこのような趨勢を憂慮し、警鐘を鳴らさざるをえません。
震災から一年
あの震災から、ちょうど一年が経ちました。正直申し上げて、私自身、この一年間を冷静に振り返る心境には、まだ達していません。あれから、とにかく必死で生きて、懸命に仕事をしてきて、職業柄、トラウマとなるような多くの場面に遭遇してきました。当事務所の手掛けたお客様の物件については、無被害と言っていい状況なのが、不幸中の幸いでしたが、建築士として、行政その他多方面からの依頼で、数百件もの現場を廻った経験を、まだ自分自身のなかで整理し切れていません。そのうえ、大津波のような自然の猛威に抗しきれない人間の非力さを見せつけられ、さらには、原発事故に風評被害です。
今回の震災は、「地盤」がキーポイントだったとか、「瓦屋根」は地震に弱いとか、地震の周期が建物(上物)が壊れにくい長周期の揺れだったとか、鉄骨5Fのビルをモルタル外壁にする馬鹿はいないとか、そのような建築・土木的な話のみで完結されるべき問題ではなく、現在の社会が抱える様々な問題を浮き彫りにしています。 例えば、高齢化社会・核家族化の進行に伴い、今回の震災で築数十年経過した家が相当損傷し、そこに住む高齢の夫婦が嘆くわけです。 「私たちはこの先短いし、子供達は独立して所帯を持ち、ここに戻ってくることはないでしょう。この年になれば、家を建替えることも出来ないし、そうかと言って、また、いつ大地震が来るかわからない。不安に怯えながら、この先、生きていくしかないのでしょうか?」 このようなニュアンスのお話は何回聞いたかわかりません。 まだ、生活に支障のないような家の損傷具合ならいいのです。家が傾いて、そのような状況を放置せざるをえない高齢者の住居は茨城県内だけでも相当数に上るのではないかと思われます。家が傾いた状況で生活を長く続ければ、人間の平衡感覚は狂い、いずれ、健康状態に支障が生じる可能性が高いでしょう。けれども、長く住み慣れた愛着ある住居を手放して、解体するにも忍びなく、そのまま住み続ける高齢者も多いのです。 日本人の特性として、このような問題を、すぐに、政治家や行政が悪いと言う傾向にあります。福祉の充実化を図り、高齢者が安心できる暮らしの実現などのような心地良い言葉に酔いしれて、それを行政や議員に押し付けて、そのくせ、自分の親の面倒もろくに見ないようなケースは枚挙に暇ありません。 大震災を通じて、日本の社会の現状が抱える多くの深刻な問題が浮き彫りにされるのは、まだまだ端緒に過ぎないと、私自身は考えています。
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