設計者の想いの日々(ブログ)
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永井昭夫
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設計者の想いの日々(ブログ)

建築素材・材料

KD材・AD材・グリーン材とは~自然素材の再発見

柱、梁などの木造の構造材は、その乾燥方法によって、下記の通り、大きく3種類に分類されます。
①KD材(Kiln Dry Wood)と呼ばれる人工乾燥材で、温度や湿度、風量等を制御できる釜に入れて短期間で乾燥させる方法
②AD材(エアドライ材)と呼ばれる天然乾燥材で、文字通り、自然に乾燥させる方法
③グリーン材と呼ばれる、天然乾燥過程がまだ十分でない木材

つい数十年前までは、②の天然乾燥材が主流でしたが、現在では、①のKD材が主流となりつつあります。
AD材(天然乾燥材)は、原木から製材されて、どんなに短くとも半年から一年の乾燥期間が必要ですが、KD材(人工乾燥材)の場合、2週間から一ヶ月程度で済みます。また、KD材は、含水率をAD材(天然乾燥材)以上に下げることが可能なので、木材の狂いや暴れを極力減らすことが出来ます。木材の狂いがほとんど無くなる状態になることで、建築構造上、不具合が短期的には無くなり、仕上のクロスのひび割れ、建具の建付けが悪くなるなどのクレームを減らすことに繋がります。
それから、構造材のプレカット工場の普及によって、より狂いの少ないKD材が好まれるということも背景にあります。

このように、KD材は良い点ばかりのように思えますが、大きな欠点もあります。
それは、人工乾燥の釜に入れることで、含水率を下げることが出来るのですが、木の持つ脂身まで失うこととなり、木材の内部の割れが生じるなど、多くの問題を抱えます。木の持つ脂身を失うということは、木の性質が持つ「粘り」が無くなり、耐久性そのものも失います。もちろん、30~40年の耐久性はあるでしょうけれども、50~100年前後の耐久性を望むことは難しいでしょう。

それに対して、AD材(天然乾燥材)は、KD材より狂いやすい材料ですが、木の脂身を失わないことで、木の性質が持つ「粘り」を保ち、表面割れの現象こそ起こりますが、内部割れのような構造的欠陥は生じません。
つまり、狂いやすいというAD材の欠点を補うために、木の性質や素性を読みながら、大工さんが手刻みで加工を行えば、AD材を使用しても問題が無く、長い耐久性を保つということです。
グリーン材についても同様です。伐採直後の水の滴るような状態の材木は論外ですが、ある程度の含水率まで下がっている状態であれば、AD材同様、フォローすることは可能です。KD材とグリーン材を曲げ・圧縮・せん断試験などをすれば強度は、断然グリーン材の方が上です。
元々、KD材は、乾燥を速めるため、木材の目の積んでいない強度の弱い材料を使用します。木材の目の積んでいる強度ある材用を使用することはありません。
木材の細胞は50度以上に加熱されることで組織は死んでしまいます。死んだ木材細胞は、吸湿能力もほどんとなく、木の香りも艶もなくなり、強度も弱まります。

「板倉建築住宅」で知られている筑波大学の安藤邦廣教授の言葉を下記に引用します。
『人工乾燥の木材は細胞が老化した老人の肌のようなもの。バサバサしていて艶もないし張りもない。呼吸しない。
それに対して自然乾燥の木材は若者の肌のようなもの。収縮や膨張などの悪さもするが艶やかで張りもあるし呼吸する。それに、これから壮年期にかけて更に強くなる。だから何百年もの間家屋を支えることができた。
それに対してKD材は、強制乾燥をかけた直後から劣化が始まる。しかしそれでも、30年程度は問題なく家屋の建材として使用に耐えることはできる。
今の日本の住宅は大抵30年位で寿命が来るから、それだけ持てばよいというのなら、KD材でも問題ない。
ただし、かつての日本の民家のように、建て替えの際に木材を再利用することは絶対にできない。劣化した抜け殻のようなものだから。』

国を挙げて、「長期優良住宅」が推奨されている昨今ですが、KD材が主流となっている現在の家造りをみると、せいぜい30~40年持てば良いという、戦後以降の家造りの考え方が、益々、加速されているように感じます。
大工職人の高齢化が進み、構造体の手刻みの加工が出来る職人が減りつつある現在、木材の良さ、自然素材の良さを改めて見直して、再発見していく必要があると、私は、常々、考えています。
カテゴリ:建築素材・材料 2012年11月2日(金)

土佐和紙壁紙

経年劣化が激しく、化学製品である「ビニールクロス」貼ではなく、月日とともに風合が現れてくる自然素材である「和紙」を使いたくても、非常に高価でなかなか使えないのが現状でしたが、「ビニールクロス」と価格面で同等に近い「和紙」を見つけることが出来ました。

本題の「和紙」の話の前に、「ビニールクロス」について、簡単にご説明します。
価格の点から申し上げれば、「ビニールクロス」にも大きく二種類あります。一つは、ハウスメーカー、建売住宅、アパート・マンションによく使用される「普及品」タイプと、良心的な住宅会社・工務店や設計事務所、あるいは店舗などでよく使用される「1000番台」のタイプです。「普及品」タイプは、白系等、花柄模様を中心とする大量普及品で、安価ですが、種類が限られています。「1000番台」のタイプは、種類は非常に豊富で、意匠的にも面白いものもありますが、「普及品」タイプよりは高価です。
当設計事務所で、予算の問題で自然素材を使えず「ビニールクロス」を使用するとすれば、この「1000番」タイプで、「普及品」タイプを使用したとしても、納戸や便所などにその用途を限っています。

本題に戻ります。
「ビニールクロス」と価格面で同等に近い「和紙」は、1000年以上の歴史がある「土佐和紙」で、「和紙」は本来、「手漉き」のものでしたが、高知大学農学部と高知県立紙産業技術センターなどを中心に、「土佐の伝統産業を守る」というこの一念のもとに、近年、「機械漉き」の「土佐和紙壁紙」が開発されました。
「手漉き」を「機械漉き」にすること、そして、営業・販売・流通経費をかけないことによって、コストダウンに成功しています。
この「機械漉き」の「土佐壁紙和紙」は、「1000番」タイプの「ビニールクロス」の価格+100~300円/㎡程度の価格で実現可能です。住宅一軒で、平均の壁・天井の面積が300~400㎡ですから、「1000番台」タイプの「ビニールクロス」+10万前後の価格で実現出来るということになります。(注意:施工会社によって異なります)

この和紙の詳細ついては、「土佐和紙壁紙」で検索してみてください。


土佐和紙は国の伝統工芸品として指定を受け、土佐和紙を代表する土佐典具紙、清帳紙は、「無形文化財」に指定されており、土佐和紙の原料である「楮(こうぞ)」「三椏(みつまた)」は、高知県が全国の生産量の55%を占めています。

和紙は、ジョイント部分について、「重ね貼り」が基本です。対するビニールクロスのジョイント部分は、「突き付け」です。つまり、和紙は、1~2cm、ジョイント部分を重ねて貼るため、どうしてもジョイント部分が目立ちます。和紙は、調湿性があり収縮するため、どうしてもそのような施工方法になるのですが、それを風合いと捉えるかどうかは、人それぞれの価値観だと思います。

日本の伝統産業を守り、かつ、日本の伝統を積極的に取り入れて、いかに現代と調和させていくか、これは当設計事務所の使命であると考えています。
カテゴリ:建築素材・材料 2012年10月31日(水)

未晒し蜜ロウワックス

             
「未晒し蜜ロウワックス」は、檜の産地で知られる三重県尾鷲にある「小川耕太郎&百合子社」の製品です。
無垢材の床や腰壁にアクリルやウレタンの塗装をかけてある製品も多く存在しますが、どうしても無垢材の素材感が損なわれ、無垢材らしさが半減してしまいます、
そこで、よく使用されるのが、この「未晒し蜜ロウワックス」です。

「未晒し蜜ロウワックス」は、昔から木の艶出し、番傘の防水に使われていた「一番絞りエゴマ油」と、紀州熊野を中心に採られた国産の「蜜ロウ」の二つの安全な天然素材だけから出来ています。「蜜ロウ」とは、ミツバチ(働きバチ)の巣を構成する蝋を精製したものをいいます。

無塗装のフローリングや腰壁に、この「未晒し蜜ロウワックス」を塗布すると、無垢材の素材感を損なうことなく、逆に、無垢材の良さを引き出し、防水性や防汚性を向上させます。
材料費も100円/㎡程度と安価です。

但し、化学製品を全く使用せず、天然素材だけで作られた製品ですから、蜜ロウワックスの持ちは長くなく、1~2年程度に一回は、再度ワックスをかけてメンテナンスをする必要があります。ワックスのかけ方については、指定の方法がありますので、下記のHPをご参照下さい。

「未晒し蜜ロウワックス」はジョイフル本田やジョイフル山新などのホームセンターなどで販売しています。
折角、無垢材を使用するのであれば、ウレタン塗装品のものではなく、無塗装の無垢材に、「未晒し蜜ロウワックス」を塗布することを、当設計事務所は推奨します。

「小川耕太郎百合子社」の「未晒し蜜蝋ワックス」のHP

「未晒し蜜ロウワックス」を檜のフローリングと腰壁に塗布した例
カテゴリ:建築素材・材料 2012年10月26日(金)

内装材としてのクロスを考える

壁や天井の仕上げとして、現在、最も使用されているビニールクロスは、英語の「cloth」が由来です。「cloth」は布や織物を意味していて、ビニール系の意味は含まれていません。つまり、元々、壁や天井に使用されるクロスは、布系統のものが使用されていたということです。そのようなクロスは、「布クロス」と呼ばれていて、麻や綿、レーヨン製のものです。安価なビニールクロスが主流となった現在、調湿性のある自然に近い素材として、もっと見直されてもいい材料だと思います。価格としては、一般的なビニールクロスと比較して、㎡あたり500円程度の差額、すなわち、ビニールクロスの1.5倍程度が一般的な相場です。ビニールクロスの3~4倍する珪藻土よりは、だいぶお手頃な材料です。
欠点としては、ビニールクロスと比較して、素材が布なので、掃除がしにくいこと、多彩なビニールクロスの品揃えに比べると、意匠性の幅が狭まることが挙げられます。
ただ、調湿性があり、飽きのこないその素材の利点は捨てがたいものがあり、設計者としても、もっと普及に努めてもいいのではないかと考えています。

調湿性のあるこの布クロスに、その下地である石膏ボードを、珪藻土入りの石膏ボードに変えることで、大幅に調湿機能を上昇させる方法もあります。
この珪藻土入りの石膏ボードですが、通常の石膏ボードの倍の値段がします。けれども、通常の石膏ボードは一枚あたりの原価が300~400円程度ですから、家一軒分、約300枚分でも、10万円程度の差額で済みます。
この調湿性のある下地材に、布クロスのような調湿性のある材料で、家一軒分仕上げると、平均的に、約30万前後の差額となります。(この差額は原価です。ハウスメーカーでは、オプション費用としての請求が、その倍以上となる可能性がございます)
但し、この珪藻土入り石膏ボードも、仕上げ材がビニールクロスのような樹脂系の材料では、その効果を発揮することはできませんので、布クロスや和紙のような調湿性のある材料で仕上げる必要があります。

最後に、このクロスの工事ですが、大工や内装業者の作る下地によって、だいぶ左右されます。つまり、大工が作る下地が下手糞なら、クロス屋さんがいくら上手くても、クロス貼りの出来が悪くなるということです。クロス工事についてのクレームは非常に多いものですが、だいたいは下地に起因しています。
以上、長くなりますので、クロスや下地については、別の機会に、別の視点で、お話したいと思います。
カテゴリ:建築素材・材料 2011年1月22日(土)

日本の床の文化として畳を見直す

1300年以上前から存在する「畳」は、湿度が高く、四季の変化が折々である日本の風土のなかで、現在まで伝承されてきた日本独自の床の文化です。「畳」は適度な弾力性、冬でも冷たくならない高い保温性、イグサの持つ雑菌を抑える優れた抗菌作用、室内の調湿作用などの多機能性を兼ね備え、自然素材としてもっと脚光を浴びてよいものであると設計者として思います。
そして、「畳」は、トイレ・キッチン・洗面所などの水回り以外のどこに使用しても良い材料です。例えば、玄関正面のホールに「畳」を敷くことで、凛とした空間を造ることができます。廊下に使用すれば、足音を消すことができますし、リビングの板の間にカーペットを敷き、座ってくつろぐのであれば、多機能性を兼ね備えた「畳」のほうが利点は多いような気がします。

しかし、このような長い歴史のなかで培われた「畳」の文化は、現在、お世辞にも大事にされているとは言えず、「畳」の空間は減少の一途を辿っています。
そして、「畳」の厚さと云えば、その機能性を保つために、55~60㎜が常識ですが、ハウスメーカー・ビルダーでは、営業経費増大・工事費削減傾向により、12~30㎜の厚さの畳を標準仕様とするところも多いようです。その程度の厚さでは「畳」ではなく、単なる「ござ」と言っていいでしょう。そのような薄い畳では、畳が反り返ってしまい、下地に両面テープを貼って、お茶を濁すようなことが平気で行われているのが現状です。家造りが貧相になりつつある現われと思わざるをえません。

昔ながら「畳」の内部は、国産の藁を使用し、藁を1年以上自然乾燥させて、藁を発酵させ、その発酵熱で、虫や虫の卵を退治します。1年以上かけて、じっくり乾燥させることで、藁の弾力性が発揮されるわけです。
現在はいわゆる建材床、ポリスチレンフォームとボードで出来た畳床が主流ですが、茶道を行うような茶室では、正座を長い間しても足が痺れない弾力性のある稲藁で作った畳を使用しています。現在主流の建材床と昔ながらの稲藁床の価格差は一帖あたり約2000円であり、耐久性も稲藁床のほうがありますので、自然素材にこだわるのであれば、稲藁床をお勧めします。但し、建材床と比較すれば、稲藁床はダニが発生しやすいとは思います。

次に、畳表についてですが、現代風の和室にも調和するなどの理由で、半畳タイプで縁がない、いわゆる「琉球畳」が最近人気があります。(下記写真参照)値段は半畳で13000円程度で、一般的な畳の倍以上の値段がします。縁なしの畳の場合、畳の端部が痛みやすいので、用いられるイグサは磨耗性が強いものを使用します。この縁なし畳は、耐久性がありって強靭なので、使用頻度の高い玄関ホール・廊下にも適していると思います。琉球畳といっても、大分産が多いようで、「目積表」という名称も使われます。
この畳表ですが、現在安価な中国産が大量に輸入されています。農薬や畳を染める安易な着色料を大量に使用することで手間を省いており、そのような畳は、人体に害を及ぼしかねませんので、いくら安価と言えども、使用することはお勧めできません。イグサ本来の性質を生かすためには、化学着色料を使用せず、「天然染土」というもので、「泥染め」をすることが必要です。
ちなみに、畳表の値段はピンきりで、現在80%が中国産です。お客様に指定がなく、ハウスメーカー・ビルダーなどの業者任せにすると、質の悪い輸入物の畳表という場合がほとんどですので、ご注意ください。
また、この畳表ですが、5年程度で裏返しすることで、また新しい状態で使用できて、イグサの香りを復活させることができます。フローリングと違って、容易に取替えが利くことも畳の利点だと思います。

戦後、日本家屋の文化が破壊され、住宅が「文化」から、もはや単なる「商品」に成り下がりつつある現在、1300年以上続く「畳」という日本の床の文化を見直すことは、日本の住宅の文化を見直すことではないかと、設計者の一人として、私は考えています。

カテゴリ:建築素材・材料 2010年11月10日(水)
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