設計者の想いの日々(ブログ)
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2010年11月11日(木)

在来木造工法の構造を考える

今日は「在来木造工法」の建築物の構造についてのお話です。今回はちょっと難しい話題かもしれませんが、構造の考え方の盲点になっている面がありますので、しばし、お付き合い頂けると嬉しいです。
「在来木造工法」と云うと、何百年前からの木造の建築物をも含むと思われるのが一般的だと思います。しかし、この認識は全く違っていて、戦後の建築基準法が制定された昭和20年代からの木造建築物のことを指します。それ以前の木造建築は「伝統工法」と言って、構造の考え方がまるで違っています。つまり、戦後から現在の「在来木造工法」は筋交いなどを計算に入れて、「強さ」というか「剛性」で、地震や風圧力などの自然の力に対抗するのに対し、何百年前から戦前までの「伝統工法」は「粘り」、「力を上手に逃がす」ことで、自然の力と上手に付き合ってきました。
どちらがいいのか悪いのか、ここでは言及を避けますが、現在の建築基準法では、筋交いがなく、石に柱を載せるような「伝統工法」は違法ということになります。また「在来木造工法」は戦後60年ほどの歴史しか有しておらず、その歴史は試行錯誤を繰り返しています。

前置きはこのぐらいにしまして、まず、2Fの床の水平剛性についての話です。2F建の建築物の場合、2Fの床は、建築物の高さ方向のほぼ真ん中に位置します。
この2F床の水平剛性が重要であると次第にわかってきたのはまだ最近で、阪神大震災の頃です。
それ以前は、2Fの床を支える梁(火打梁含む)だけで、水平剛性を持たせようとしました。しかし、垂直方向の壁に筋交いなどを入れて大きな耐力を持たせているのに対し、水平方向の耐力は梁組だけです。それでは水平方向の耐力がなく、かつ垂直方向の耐力に対しアンバランスで、筋交いの利きが非常に悪いということがわかってきましたので、2Fの床の梁に構造用合板を直貼りすることで、水平剛性を確保しました。この構造用合板の厚みも次第に厚くなって、現在では28㎜程度で施工されることも多いようです。私自身も約15年前から「在来木造工法」における水平剛性の大切さは非常に認識しております。
ただ私が散見するに、施工が悪いケースは非常に多いです。つまり、構造用合板を利かすための釘の選定が間違っていることが多々あるのです。具体的に言えば、いわゆる丸釘(N釘)やCN釘を使用しなければ強度が出ないのにもかかわらず、大工の機械の鉄砲で細めの釘をガンガン打っていきます。ハウスメーカー・ビルダーの現場でも同様です。現場監督が知識不足のせいか、現場をかけ持ちし過ぎているせいかわかりませんが、そこまで目が行き届いていないのが現状です。
また、このような構造用合板ですが、自然素材志向の私としては、できれば合板でなく、無垢材で2Fの床の下地も仕上げたいところなのですが、水平剛性が確保できる構造用としての無垢材が限られていて、また高価であることから、構造上の事項を優先して、合板を使用するに至っております。

もう一点、今度は、壁に筋交いを使用するに加えて、壁に構造用合板、あるいはそれに類似するダイライトのような面材を貼る場合の注意点です。これらの面材は筋交いと同様に、耐力壁となりうるものなのですが、構造計算上、これらの面材の使用を全く考慮せず、筋交いのみ使用での計算で済ますことが多いのは非常に危惧するところです。いわゆる構造用合板は余力耐力という考え方で、強い分には問題ないだろうという安易な発想です。
筋交いだけの計算の場合と、筋交い+構造用合板などの面材の計算の場合では、まず柱脚・柱頭に使用する金物が変わってきます。つまり、筋交いだけの計算ならば、簡易な金物で済んでも、筋交い+構造用合板などの面材の計算では堅固な金物が必要になるのです。つまり、耐力壁が強くなればなるほど、柱の引き抜き力が増していくのです。筋交いだけの金物の計算で簡易な金物を設置し、実際は筋交い+構造用合板などの面材を使用した場合、大きな地震が来た際、柱には計算以上の大きな引き抜き力が働き、建築物が崩壊しても不思議ではないのです。
まだ問題はあります。耐力壁のバランスの問題です。一般的な住宅の場合、南側にサッシのような開口部が多くて壁が少なく、北側に開口部が少なく壁が多いことが多数だと思います。つまり南側に耐力壁が少なくて北側に耐力壁が多い「在来木造工法」の場合、阪神大震災を例に挙げると、耐力壁の少ない南側が崩壊するケースが多く見られました。つまり耐力壁が偏り過ぎる建築物は崩壊しやすいことが証明されてしまったわけです。その後、建築物の偏心率の算定規定が旧建設省により設けられるに至りました。
ところが、この偏心率の算定を、またまた、構造用合板のような面材を余力耐力として考え、筋交いだけの計算で済ましてしまうことが非常に多いのです。筋交いだけで、北側と南側の耐力壁のバランスを取っても、構造用合板のような面材を考慮しなければ、偏心率の計算は「絵に描いた餅」で、危険な建築物が出来上がってしまいます。

長くなりましたので、今日の構造の話はこの辺で終わりにしたいと思いますが、言い足りないことはまだまだ沢山あります。また別の機会に別の論点について、お話したいと思います。今日の話は専門的でちょっと難しかったと思います。もしご不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせください。
カテゴリ:建築構造・性能 2010年11月11日(木)
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