設計者の想いの日々(ブログ)

設計事務所とは

建設・住宅業界

物書きを志して上京し、いつの間にか物造りに関わり、いわゆる建設業界に身を投じてからアルバイトの期間を含めると約20年が経過しました。
スコップを持って穴を掘ったり、国会議事堂の壁を解体したり、大きなビルの片付・清掃のようなアルバイトから始まって、建設会社やハウスメーカーの現場監督や設計業務、そして設計事務所に勤めたりと、独立に至るまで様々な立場でこの業界に携わってきました。
その拙い経験から申し上げると、この建設業界というものは生産者重視だということです。単刀直入に言うと、消費者を軽視している、さらにいうとお客様の利益を考えていない業界だということです。

建設会社・工務店とハウスメーカー

建物を施工する建設会社・工務店からすれば、やりやすい仕事をしてできるだけ利益を上げる。決して手抜きをするわけではないのですが、できるものならば面倒なことは避けたいという気持ちが心の奥底にあります。
ハウスメーカーで住宅を売る立場からすれば、一般人が絶対に建てることができないような贅沢な仕様でとりあえず客寄せをして、実際建てるのはお仕着せの標準仕様で、多少のオプションでお茶を濁す。それも莫大な営業経費がかかっているので、工事費の40%前後が粗利益となってお客様に不当な高い買い物をさせてしまう結果に終わる、または、本体価格と称して絶対にできないような坪単価で客寄せをしておきながら、どういうローコストメーカーであっても、オプション無しで最終的には坪40万前後はかかってしまう、そんな理不尽な現実があります。
こうして考えていくと、ハウスメーカーを含め建物を建築する「生産者」であるいわゆる施工会社サイドと「消費者」であるお客様とは完全に対立する関係にあるのではないかということです。
「生産者」と「消費者」、言い換えると「お金を貰う立場」と「貴重なお金を支払う立場」です。対立するのは当然です。

苦い経験

私がハウスメーカー勤務時代のことです。当時、私は設計・積算から現場監督まで一貫して行う立場にいました。土日も夜も昼も関係なく働きました。平日は現場に行って職人に指示、土日はお客様と打合せです。残業は月200時間を超えていたかと思います。そんな過酷な状況でわかったことがあります。本当にお客様のことを考えて設計して現場監督を行った物件は全て会社の規定利益に達しませんでした。逆にお客様よりも会社の顔色を窺って行ったような物件はほとんど会社の規定利益以上でした。こうして、お客様よりも会社の利益を優先するような仕事をせざるをえない状況に徐々に追い込まれていきました。
このような苦い経験もあり、私は同一会社で設計と施工を行うことについて否定的な立場を取っています。つまり設計と施工は完全に分離し、設計者は消費者たるお客様の身になって行い、実際に施工する建設会社・工務店をお客様の立場で工事監理すべきだと思っています。
欧米では設計施工完全分離が常識です。日本の公共工事も大小問わず、この考え方に基づいて行われています。

現場監督と工事監理

ここで、施工会社が行う「現場監督」と設計者が行う「工事監理」の違いについてご説明したいと思います。
施工会社が行う「現場監督」とは多くの職人を手配して束ねる者のことです。その業務は雑用が多く、職人同士の利害を調整するのに一苦労です。やれ、約束した日に電気屋が来ないから大工がボードを貼れないから困るとか、明日台風が来るから足場が倒れないか対策したりなど現場業務で忙殺されます。しかし誰かまとめる人がいないと工事がスムーズに進みませんし、建物の品質にも影響します。雨漏りの多い現場監督と雨漏りをほとんど起こさない現場監督が存在するのが現実です。
設計者が行う「工事監理」とは、工事業者が提出する見積書を細部にわたって精査して、お客様の立場で工事業者と交渉したり、図面通り工事が行われているかを確認する業務です。人間ですから、間違いをすることもあり、ここで工事監理者は現場監督に注意を行ったりします。原則的に工事監理者は職人に直接注意せず、窓口である現場監督に注意します。

設計事務所としての存在

営業努力が足らないせいか、設計事務所の存在が世間に十分に浸透していないのが現実です。設計事務所は少人数体制を取っていることがほとんどであるため、営業経費があまり捻出できずいわゆるコネ・紹介・口コミなどに頼ってきていました。それが従来型の設計事務所でした。
けれども、ネットの普及にともない、それほど営業経費をかけずに宣伝することが可能となり、ネットを通じての受注を中心とする設計事務所も現れ始めました。今までは店舗・事務所・福祉施設など何回も建物を建てる機会が多いお客様の方々を中心に自らの意向を反映しやすい設計事務所が珍重されてきましたが、これからは住宅の分野でも積極的に進出してもよいと考えています。
設計事務所は確かに設計・監理料がかかりますが、それほど営業経費をかけていない地域密着型の良心的な建設会社・工務店に見積依頼することで、無駄な経費を省くことができるので、こだわりをもたれているお客様には向いているかと思います。
しかし設計事務所にはハウスメーカーのように標準仕様はなく、お客様と設計事務所がゼロから積み上げていく作業がありますので、お客様の労力はかかりますし、時間もそれなりにかかりますが、建物が完成した暁の充実感と住み始めてからの家への愛着はいわゆる標準仕様では得られないと思います。
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